純化され過ぎた祈りの結末
かろうじて追加された要素は、謎の青年と望美の出会いを洗い直し、次の邂逅を何とか予測してみようという悪足掻き。予測したところで、どうなるというのか。望美が受け取るという“心のかけら”が文字通り彼女の心の一部であるなら、その授受は必然。周囲が何をどうしようとも、彼女がやがてそれに辿り着くのもまた必然であるとは考える。
“心のかけら”が手に入ると、あの迷宮は奥へ進めるようになる。それはまるで、あの迷宮が望美の心であると言われているようだ。では、心が欠けてしまったのは何故なのか。それを取り戻すということは、どういう意味を持っているのか。
やはりには、わからないことが多すぎる。
クリスマスパーティーの夜から、周囲からの過剰な気遣いと勧めによっての部屋は知盛と同室である。まあ、別にいまさら寝食を共にすることに対して大げさに騒ぐ可愛気は残っていないし、ありがたいというのが正直な気持ちだったので素直に甘んじている。
おかげで、こうしてのんびり湯飲みを片手に、とりとめも遠慮も必要ない相談を繰り広げられているのだし。
「どう思う?」
「また、唐突な質問だな」
わけがわからないから、やり直せ。そうにべなく疑問を跳ねのけられ、は小さく唇を尖らせる。
「まとまらないんだもの、やり直せないわ」
「なら諦めろ」
「諦められません」
座布団を借り受け、夕食後のまったりした時間をこうして向き合って過ごす中に、ここ最近ずっと身を浸していた非日常の気配は微塵も存在しない。この時間が続くように、この時間が取り戻せるように。そのためには、一刻も早くあの迷宮の謎を解き明かしてしまうことが肝要なのだとわかっている。
意外と猫舌な知盛がようやく湯飲みに口をつけ、満足そうに目を細めてから譲からの差し入れである草団子に手を伸ばす。
「うまいな」
「レシピを教えてはもらったんだけど、再現できない自信があるわ」
これ、あんこも手作りなのよ。
一口かじると同時に目を見開き、至極やわらに微笑んで賞讃の言葉を紡ぐ知盛に、も同じく上品な甘さを堪能しながらため息をひとつ。
「プロ級よね」
「だな。ぜひとも、末永くお付き合い願いたいものだ」
じっくり味わうつもりなのだろう。茶を含みながらゆっくりとかじる様子に、この時間の小道具選択の正解を悟り、は小さく口の端を吊り上げた。
「でね、さっきの続き」
ひょいと器用に片眉を跳ね上げた知盛は、わずかに目を細めて「面倒だな」と呟く。
「せめて、話題を絞れ。何について、またいらない混乱を起こしているんだ?」
「……いらない混乱じゃなくて、知盛くんが頭の回転速すぎるだけだと思うんだけど」
スペックの違いを無視して欲しくないと訴えてから、軽口で混ぜ返されるということは少なくとも付き合ってくれる意思表示だろうと、小さく安堵の息をつく。
「あの迷宮、扉はあと一個かなって思うの」
「だろうな」
残された塔がひとつなら、あそこに据え置かれるだろう“心のかけら”とやらもあとひとつだろう。それはすなわち終焉が見えはじめてきたということなのだろうが、どうにもしっくりとしないのだ。
「でも、まだまだ終わらない気がするの」
確証はない。確信もない。それこそ、いらない杞憂と言われてしまえば否定できない、淡い不安。だが、にはその不安を自力で拭い去ることも、無理に抑えつけることもできない。
「なぜ?」
すっと、切りかえされた言葉は短くも鋭く、逃げを許さない類のものだった。ならばきっと、同じ不穏を知盛も感じ取っている。それだけは少なくとも確信できて、は小さく息を吸いなおす。
Fin.