朔夜のうさぎは夢を見る

分岐さえない螺旋の記憶

 残酷なこと。そう感じながらも恋うことをやめられなかったのは、なぜだったのかと、時々思い悩む。
 何よりも残酷で、非情で非道な現実だった。
 背中を合わせて袖が触れ合う。
 夜闇の中に、寝顔を眺める。
 戦乱にあっては共に駆け抜け、その魂は、自分の魂に寄り添ってくれる存在だと思った。


 なのに、違うのだ。だって、手が届かない。
 指を伸ばしても届かない。捉えたつもりが、すり抜ける。
 見える、視える。そして思いが胸を満たす。
 己のものではない切ない慟哭が、音にならずに胸に沈む。


 よぎる光景は、けれどどこまでも愛しかった。
 蝉時雨の只中に浮かび上がる陽炎を追い求める。水面に映った月に、恋焦がれる。
 そして自分は狂っていく。
 がらがらと崩れる心を抱えながら、この虚ろを、あの儚く美しい魂で満たせればいいと希っていたのは、恋をしていたからだと知っている。

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Fin.

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いらっしゃらないとは思いますが、無断転載はやめてください。