花の散るらむ 〜壱〜
夜闇の深さと生ぬるさばかりは、どこにあってもそう変わるものではないらしい。少なくとも、夜が人の手による灯りにあまりにも深く侵食されない限り。
「ちょろちょろと、実に健気なことだな」
「将軍の警護ともあれば、それは名誉なことでしょう。少なくとも、これまでその存在価値を認めてもらえなかった分は、なおのこと」
伏見奉行所を固める浅葱色のだんだら羽織を見やりながら、男は冷ややかに吐き出し、女は淡々と受け流す。
夜闇を振り払おうとするかのごとき篝火は赤々と美しいが、けれど闇を完全に拭い去ることはできない。そうして残された闇に沈み、男は細く吐息混じりに言葉を編み上げる。
「そういえば、先日の池田屋では黒髪の男を相手取ったと言っていたが――」
「右差しの剣客です」
「では、あちらか」
視線で示された先に並ぶ二人の黒髪の隊士のどちらかと問われているのだと早々に察し、言葉少なに求められた答を返した女に、男はすいと双眸を眇める。
「お前たちは、相手はいるか?」
「オレはいるぜ」
「私は、いないようですね」
「俺もいないようだが、まあいい」
今日は挨拶と確認だ。ひとりごちてそう嗤い、男は近づいてくる小柄な人影に視線を据える。
「邪魔するようであれば、相手をしてやれ」
「承知しました」
呟きにも等しい男の声には、すぐ脇に控えた女からの、温度のない即答。いついかなる時分においても決して男の邪魔をすることのない聡明さは、種の違いによる蔑視を超えて男が認める女の価値だった。拾ったのだから自分に従えと、その言葉に応えてこうして付き従う女は、同族の誰よりも忠実な、男の懐刀になりつつある。
せめてはこのぐらいの聡明さを宿していれば文句がないのだが、さて、どうであろうか。取り留めのない思索を闇に置き去りに、男は標的に声をかける。
ただ話をしにきただけだというのに、いきなり殺気を漲らせて対峙してくるのはどうなのかと。声に出さない文句を胸の奥で呟きながら、は鞘を払う。手に馴染んだ剣は海の藻屑と消えてしまったが、新しく誂えてもらった品もまた一級品だった。軽く、勁く、鋭い。
柄を両手で握り、構えは正眼。素早さと手数の多さを前面に出す戦い方は自分と傾向が同じでやりにくいが、逆にいえば相手の考えることが多少は読みやすいということだ。持久戦には持ち込みたくない。だから、初太刀にかける意気込みと必殺の意思が深い。
対峙は永遠とも錯覚され、交錯は刹那だった。叩きつけられる殺気と剣気に背筋を震わせる裏側で、その太刀筋の鮮やかさに惚れ惚れと息を吐く。言葉で語ってわかりあえる部分などごく一握り。同じ剣を携え戦う者ならば、刃を交えることこそが互いを理解することだと。物騒な発想に相反するとも即するともいえるだろう、どこまでも潔くどこか儚い太刀筋を描くあの人に、少し似ていると思った。
「見事なものだな」
「そちらこそ、お見事な居合いですね」
手を抜いたつもりはない。初撃で殺すつもりで振るったし、殺されまいとかいくぐった。それが互いにあてはまった結果、位置を入れ替えた対峙が再現されたというだけのこと。
***
右のかかとを引き、そのまま右脚を軸に体の向きを変える。今度は構えは取らない。柄は両手で握り、けれど剣先は地に向けて刀身は体側に流す。
風間と少女、そして少女を守る剣士との会話にならない言葉の応酬はまだ続いているらしい。言いたいことしか言わないくせに相手に返答を求め、それをろくに聞こうともしない。よくこれまで生きてこられたと思うが、それが彼という立場であり力であり、宿業なのだろう。
当人に気にした様子がないから同情するのは筋違いなのだろうと思いはするものの、自分ならば耐え切れないと思うことを止めるつもりもない。
「お前も、鬼なのか?」
「さあ。鬼だから、人だからと、そう括ることに何の意味があります」
「あちらの風間とかいう鬼は、少なくともそこに意義を見出しているようだ」
「ですが、わたしは“わたし”という存在ゆえにその価値を認むと言っていただきました」
警戒は解かず、殺気も収めない。その中で風間よりは段違いにまともだろう会話を成り立たせられるのは、ひとえに考え方の違いだろう。相手との実力が拮抗していることが明らかであり、一対一の勝負以上に優先させたいことがある。ならば、無駄なことはしないに限る。
気まぐれのように発された「引き上げる」との言葉を捉え、は相手がいまだ居合いの構えを崩さないことも意に介さず、躊躇いなく刀を鞘に収める。そして、思い立ってふと口を開いた。
「変若水と羅刹をご存知ですか?」
「……それなりに」
追い詰められればなりふり構わなくなるのは、時代の違い、世界の違いを超えた普遍的な心理なのかもしれない。あるいは、滅びを察しての自暴自棄か。
人の枠を踏み越えた力を欲する姿には、覚えがあった。それによって齎される一時的な夢にも。夢が覚めた後に待っている、現にも。
彼の剣は嫌いじゃない。あの人の太刀筋を髣髴とさせるし、あの人は彼の剣を好きだろうと思う。手を伸べる理由など、それだけで十分。
「では、次にお会いした時も、あなたがそれに手を染めていないことを祈ります」
手を出すなと、強要はしない。知っているといらえた彼の瞳に走った痛みは、彼があの人と同様、夢の只中で現を見据えていることを宣していたから。だから、その上で選ぶというのならば拒絶はしないけれど。
「風間さんの言い方は捻くれていますけれど、忠告としては本物ですよ。枠は、超えるためにあるとは限りません」
「………そうだな。心に留め置こう」
構えを解きながら落とされた同意にそっと微笑みを返し、は踵を返す。
「ごきげんよう、右差しの剣士さん。次の逢瀬を楽しみにしています」
「純粋な手合わせならば、喜んで受けよう。俺は、斉藤だ。斉藤一」
仄かに笑みを含ませた声に追いかけられ、は肩越しに笑い返す。
「そうであることを願っています。今夜のわたしはあなたの敵ですけれど、あなたのことは好きですよ、斉藤さん」
思うところをまっすぐに告げた声が届いたのだろう。当人はいたって涼しい顔をしていたが、周囲が驚愕やら嫌悪やら好色やら、様々な反応を見せるのが実に愉しい。
「わたしは、といいます」
言い置いて今度こそ振り返らず、先で苦い顔をして待っている天霧に追いついて「お待たせしました」とは微笑む。先を行く風間の背中と不知火の横顔が笑っているのはいつものことで、溜め息をつく天霧もいつものこと。きっと、戻ったらば説教をされるのだろう。それを日常と呼べるほどにはこの世界に馴染んだ自分を口の端でだけ嗤って、は新たな主の背を追って、わだかまる夜のしじまへと身を溶かし込んだ。
***
人との関わりを最低限に生きているとはいえ、その歴史を紐解き、義理を返すために立ち回る風間らは薩摩藩と行動を共にするにあたり、寝食も彼らの知る場所で行っている。仮宿としている旅籠屋は、にすれば過ぎるほどに豪奢な高級宿なのだが、まるで臆した風もないということは風間にとっては基準値に近しい程度なのだろう。
「お前、揚羽とかいう剣士に心当たりはあるか?」
「………わたしに、あなた方以外の知り合いがいるとでも?」
「あの斉藤とかいう男を気に入ったと言っていただろう」
「池田屋と伏見奉行所で剣を交えた印象として、です。個人的な親交はありません」
わずらわしいことが嫌いなくせにかしずかれる生活を送ることを当たり前と考える彼に拾われて以来、は小姓もどきの仕事から配下の剣士としてまで、幅広く立ち回っている。先日の伏見奉行所への“挨拶”からこちら、どうやら地元の鬼に何かしらの注文でもつけられたのか、しばらくおとなしくしていると思えば情報収集の成果が上がるのを待っていたらしい。
淹れろと言われたから茶を淹れたというのに、淹れたての一番おいしいところに口をつけようともせず、風間は続ける。
「それだけか? いらぬ忠告までしていたから、いっそ一目惚れでもしたのかと思ったぞ」
あれもお前と同様、人間にしては上等な部類だな。己の力を弁え、それでいてよく磨いている。
珍しく相手の実力を評価する言葉を紡ぎ、愉しげに瞳を細めている風間はいたく上機嫌なようだ。ようやく湯呑みに口をつけ、そして文句が出ないのは味が及第点であった証。
「どうやらあの女鬼、よりにもよって千姫に目をかけられたらしくてな」
千姫と、その音には覚えがある。天霧に教えられた、京を統べる鬼の姫の名だ。
人との違いを強調する鬼の社会も、人のそれと同じように貴賎があり家があることをおかしく思ったものだが、基準が力の強さだという点は大きな違いだろう。強大な力を有する家こそが貴く、脆弱な力しか有さない家は、強者の支配に甘んじる。そのあまりにも明快な理屈は、人よりもわかりやすく、そして鬼たる彼らが何を重視するかを無言の内に伝えてくれる。
「その揚羽という剣士を、千姫が護衛として与えでもしましたか?」
「まだ与えてはいないが、そうでなくばあの姫がわざわざ人間の剣士と接触をもつ理由がない」
提示された情報から読み取った可能性を問えば、ゆるりと首を横に振りながらも風間は限りなく肯定に近い返答を紡ぐ。
「まあ、姫の手元に置かれてはこの遊びも終わってしまうからな。そういう意味では、少しは骨のある番犬が増えるのは歓迎するが」
「揚羽というのは、強いのですか?」
「知らぬ」
けろりといらえ、風間は大儀そうに瞳を細める。
「だから聞いたんだ。これまで名を聞いたこともない、しかし千姫が護衛にと選ぶのならそれなりの腕の持ち主であることは確か。ならば、お前の同類かと考えるのは道理だろう?」
「わたしのような例外中の例外を、そう易々と世の中に当てはめることは無謀だと思いますけれど」
ここではない世界から迷い込んだと言っても動じなかったその胆力というか神経の図太さというかは、本当に、素直に賞賛に値する風間の才能である。その才能ゆえにこうして命を救われて長らえている自覚はあるが、だからと言って必要以上に遠慮をすることもない。風間は確かにの“飼い主”ではあるが、彼が求めているのはただ従順なだけの、自立した思考さえ持たない白痴の愛玩動物ではない。いつでも牙を剥けるくせに己の意思でその下に降る、誇り高き猛獣を従えているという愉悦なのだ。
ゆえに、は己という存在を貫きながら風間に恩を返すため、その手足となることを選ぶ。唯々諾々と従うつもりはない。が風間の命を受けて動くのは、あくまでそれを従うに値すると判断しているがために。
***
だが、名を聞いたことがないというのはさらに情報を集めてもなお変わらない事実であったらしい。首を傾げ、けれど無駄なことに骨を折るつもりはなかったのだろう。まあいいかとあっさり切り上げ、そして風間は本来の目的である少女の奪取に着手する。
作戦と呼べるほどの行動計画は立てない。なぜなら、これはすべて風間にとって遂行する意思が半分程度の遊びに過ぎないからだ。薩摩藩に属する以上、新撰組の面々とは対峙することが少なくない。そうでなくとも風間なりの基準でこの歴史のうねりに手出しをする結果として、要所要所で相見えている。その過程で抱いた興味と関心に、たまたま純血の鬼の少女が絡んだというだけのこと。
同じ女として、あくまで血を残す目的でのみ追い回される少女に同情する思いもあったが、同時ににはそういうものだろうという諦観もある。身分制度がほぼ完全に崩壊した現代社会においても、皇室だけはその血筋を残すことを無言の内に求められている。それが、もっと広く社会全体に浸透しているだけなのだ。
子は親を選べず、生まれを選べない。だから諦めろというのは他人事ゆえの暴言かもしれない。だが、しがらみとはそういうものだと、受け入れてなお高潔に生きた存在を知っているから、つい、そう要求したくなる。世の中には、そのしがらみに選ばれなかったがために涙を呑み、苦汁を舐める存在とて少なくない。自分で選べない境遇に喘ぐのは、誰も同じなのだ。
「天霧は裏に回れ。お前は俺と正面だ」
唐突な行動はいつものことだったが、今回の唐突さには根拠がある。すなわち、千姫が少女の許を訪れたという情報が入ったのだ。
さしもの風間も、やんごとなき鬼の姫君に無意味に楯突くつもりはないらしい。どちらから出入りされても少女の去就がわかるよう潜む闇の向こうを、随身とおぼしき美女を連れた少女が歩み去っていく。
「ほぉ、どうやら俺はついている。あの女鬼は、姫の手には余ったか」
その後姿が完全に闇に紛れるまで見送り、そして風間はにったりと唇を吊り上げた。浮かぶのは、無邪気で残忍な冷笑。
「さて、では貰い受けにいくとするか」
言って歩む背に従って足を踏み出しながら、は少女の不運と同時に新撰組隊士の不憫を思う。あるいはこの逆境を楽しむような人間であれば別かもしれないが、仮に風間が本気になれば、彼らの手には負えないことだろう。種族の別は、あまりにも理不尽な暴力に等しい。
「お戯れを過ごされませんよう」
「わかっている。半分は挨拶だ。本気にはならんさ」
溜め息まじりの忠言には、とりあえず信用のおける声音での了承が返ってきた。どれほど傍若無人であろうと、風間はこれでも西の鬼を統べる棟梁。一族の持つ力にいたずらに注目が集まる真似を避けようとの理性は持ち合わせている。単にふざけているだけだと呼ぶには物騒に過ぎるが、それもこれも、彼の興味を惹いてしまった彼ら全員の不運だろう。
そう思いながら見届けてみたいとの欲求を理屈に換え、強者との手合わせに興奮を覚えて付き従う自分も、相当に理不尽な暴力の権化なのだろうが。少女には本当に申し訳ないが、格好の標的なので、八つ当たりをさせてもらおうとは自嘲の笑みを浮かべる。
この世界に呼びつけられた理由はわからないが、目覚めを誘ったあの苦痛が彼女に連なる存在に端を発していることは知っている。あれが自分を呼び寄せた因果なのだとすれば、関わる者を許すつもりなどあろうはずもない。それでは一体何のために彼を抱きしめた母なる海に身を投じたか、わからなくなってしまうのだから。
***
遊撃をこそ得意としたにとって、闇の中での乱戦はお手の物。ひとりひとりの腕前はともかく、四方八方から絶え間なく刃をかざされ、降る矢の雨を払い続けたあの経験は、体に染み付いている。
目で追うのではなく、体で追え。風を聞き、気配を読み、思惑に先んじて動き、刃は己が一部となせ。当初は無茶な要求だと思ったが、戦場に出ればそれがいかに適確な助言だったかが身をもって知れる。剣は腕で振り、攻撃は目で受けるものではない。命を賭けるとは文字通り、命の廻る全身全霊を用いてはじめて成り立つのだ。
「こんばんは。逢瀬に似合いの、素敵な夜だとは思いません?」
背後から迫る殺気と剣気に、恐怖と興奮が走る。この鋭さは、きっと彼のものだろう。振り返るよりも先に刀の腹で斬撃を受け流し、間合いを取って姿勢を整える。主義の違いから離別したと聞いていたが、情報の錯綜など、乱世にはよくあることである。風間は腕に少女を捕らえて満悦の様子。ならば、引き上げるとの命が下るまで、こちらはこちらで好きにすればいいだろう。
隙なく向き直り、しかしは思い描いていたのとは違う人影に唖然と目を見開く。
「そうだな。……月下に幻を見るには、実にふさわしい」
夜闇に溶けそうなほどに深い黒髪ではなく、月明かりを梳き流したような銀髪。朔夜を思わせる漆黒の瞳ではなく、宵のはじまりを思わせる深紫の瞳。低く応じる声は笑みを孕んで揺れ、唇がすぅっと円弧を描く。
ありえないと、そう叫ぶ理性の声がうるさかった。だが、現実は否定できない。ぐるぐると思考回路を駆けずり回るあらゆる疑問は、ひとつも言葉にまとまらない。そして、叩きつけられる剣気と殺気の鋭さは、本物。
「風間とかいう鬼が連れている女剣士とは、お前か?」
言ってわずかに持ち上げられた切っ先が、攻撃の機を図っている。取り留めのない思考など、その純然たる殺意によって霧散する。つまらないことを考えていれば殺されると、培った経験が何より優先するべき事項を反射的に導き出す。
「そうです」
短く返して刀を構え直し、まだ張り詰めきっていない気配に猶予を察してもまた問う。
「あなたは?」
「かの娘の傍らにてその道に従えと、千姫に命ぜられた雇われものだ」
謡うような名乗りはそれだけ。そして、残されていたわずかな猶予を剣気で塗り潰した相手に、これ以上の問答は無理だと知る。ならば、今はこれ以上は問うまい。ここを生き抜けば、きっと互いの道は再び交わる。
「さあ、せっかく誘ってくれたんだ。この夜に似合いの、良い逢瀬としようではないか」
文言の終わりは、刃が宙を切る鋭い音に乗って齎される。剣撃に載せられた軽口には答えず、はきっと眦を吊り上げて地を蹴った。
あまりにも見慣れた人影は、見慣れぬ一太刀での勝負を挑んできていた。知らない剣筋に冷や汗を流しながら立ち回り、息が上がるのはだけ。
実のところ、乱戦における男女の差はそう大きくない。技術を持たない群集が技術を持つ個を凌駕するのはよくあることだし、その逆もまた然り。そこに性差は介在しにくい。ただ、それがある一定以上の技量の均衡を保つ個人戦となると、話がまったく逆になる。
絶対的な体力の差は覆せない。膂力の差も同じ。だからは初撃必殺を心がけるし、俊敏性を武器にして手数の多さで差を埋める。だが、その対策は矛盾を孕んではじめて成立する。持久戦に持ち込むことの不利を思えばこその初撃必殺がかわされたなら、後はなるべく短期決着を目指して手数を増やして相手を翻弄するしかない。だが、その手数の多さこそが体力を削ぎ、満足に動ける時間がいっそう短くなるのだ。
「――ぐぅッ!」
乱れる息に比例して手足が重く痺れはじめる。そこに叩き込まれた重い一撃を何とか受けたはいいものの、は体勢を崩して地に倒れこむ。
だが、これは調練ではない。容赦ない追撃が降るのをかいくぐり、かろうじて間合いの外に逃げ出したは、戦闘続行よりは退却を選びたくて風間を視界に探す。
どうやらあちらも一対多数では分が悪いらしい。腕に閉じ込めていたはずの少女を奪われ、不機嫌な様子で刃を捌いていた紅の瞳が、つと流されてますます細められる。
「どうした……? もう、終わりか?」
眼前には隙など微塵もない、構えさえ取らない銀髪の剣士が迫る。拡散していた意識をかき集めて切っ先を持ち上げるものの、これ以上凌いでいられる自信がない。
「そういうことだ」
無様にただ斬られたりはするものかと、瞳に力を篭めて見返し、柄を握る手の内に力を篭めたところで、しかし二人の間にいかにも不機嫌な声が落ちる。
Fin.