紡がれることを許された現在
「遅いぞ兄さん」
「38分の遅刻だな。遅れるなら、あらかじめ連絡を入れたらどうだ?」
「すみません、こんな兄で」
「いや、兄弟は選べないからな。お前のせいではないだろう」
「そう言ってもらえると気が楽になります」
「それに、今回の主目的から考えれば、誰よりも必要なのはお前だ」
「まあ、確かに。兄さんがいてもいなくても、方向性の話し合いはできましたしね」
「おい、いつまでも呆けてないで、座ったらどうだ?」
「あ、やっぱ限定メニューにしたんだ。兄さん、そういうとこ、案外ミーハーだよな」
「冷めないうちに食ったらどうだ? 方向性はあらかた決まったし、お前の役割も、後で話してやるから」
「兄さん、冷めたポテトは嫌いなんだろ? しなしなになる前に食べちゃいなよ」
「で、俺達は本題に戻るぞ、譲。メニューとしては、イタリアンのフルコース風を目指せばいいかと思うんだが」
「そうですね。和食は地味に難しいですし、ちょっとした特別感を出すのなら、女性はやっぱり、フレンチとかイタリアンとか、好きですよね」
「イタリアンにしてしまえば、主食はパスタでごまかしが効きやすいし、デザートもティラミスのような、手間の割に見栄えのする代表的なものがある。フレンチは、きっと俺や将臣の手に負えない」
「材料とか、設備とか、いろいろ考えてもそれが妥当だと思います」
「ああ、そうそう。衣装は任せてもらおうか」
「あてがあるんですか?」
「執事喫茶でバイトをした時の制服がある。捨ててなかったと思うし、予備も持っていたはずだ」
「……知盛さん、けっこう芸の幅が広いですよね」
「俺と将臣は体格も近いからいいが、譲は少し細身なんだよな。体格の似ている奴に、喫茶店系のバイトがいないか確認しておく」
「いいんですか? 手間だと思いますけど」
「当日の主戦力はお前だし、作戦の成功もほぼお前にかかっている。それぞれの役回りというものだ」
「じゃあ、お言葉に甘えます。ありがとうございます。そしたら、俺にできる範囲、という縛りはつきますけど、メニューを具体的に決めてしまいましょうか」
「そうだな。……というか、将臣。お前、何している? これだけ時間があって、まだ食い終わってないのか」
「あーあ、ポテトがすっかり冷めてるじゃないか。ちゃんと残さずに食べろよ?」
「仕方ない、まあ、どうせ調理自体は俺も将臣もろくにできないだろうからな。メニューも、先に決めはじめるか。譲は、望美の好みは大丈夫か?」
「はい、ばっちりです。さんの分は、もちろんご存知ですよね。なので、そこら辺はお互いにすり合わせながら、ということで」
「そうだな。おい、将臣。先にメニューは決めはじめるが、なるべく早く食い終って、合流しろよ? せめて、デザートとかスープとか、簡単なところは俺達もやらないと、本末転倒だぞ」
智将の頭脳はなお健在
(真に優秀な将というのは、彼我の能力を知り、使い方を誤ることがないものだ)