俺と帝で雪遊び 〜雪うさぎを作ってみる〜
笑顔の下からすさまじくうさんくさそうな表情を滲ませて様子を見に来た重衡だったが、将臣が事情を説明した途端、うさんくささは純然な微笑ましさにひらりと覆された。そんな様子、言仁には絶対に見せないくせに。まったくもって依怙贔屓だと、将臣はこっそり頬を膨らませる。
せっかくお忍びでやってきたというのに、早々に見つかってしまったのでは機嫌が悪くなるかと思いきや、言仁は開き直るのが早かった。ばれてしまってはしょうがないと、今は庭を縦横無尽にうろつきながら黙々と作業に勤しんでいる。
「しかし、なんとお可愛らしい」
このようなことを申し上げては、不敬罪に問われてしまうかもしれませんが。そう呟くものの、声音も、表情も、先の言葉をそのまま表してどこまでも穏やかだ。
そんな大人二人のやりとりは露知らず、庭のあちらこちらに次々に姿を結ぶのは言仁の力作、数々の雪うさぎ達。雪だるまを羨んでまねようと思ったものの、雪玉をうまく大きくすることができず、拗ねてへそを曲げてしまった姿を見かねての、将臣の助言の結果だった。
「ここの南天が、あいつの知る邸の中で、一番立派なんだってさ」
白い体と、緑の長い耳と、赤い瞳と。形からうさぎであると想像するのは容易だが、その色合いは、いったいいかな意味があるのか。なぜ南天でなければいけないのか。きっと、将臣だけが知っているはずの、けれど一門の誰もが教えてはもらえない、不可思議。
「あーっ!」
さて、なんと言葉を返そうかとわずかに重衡が逡巡していたその一瞬に、二人を惹きつけたのはなんとも悲しげないとけない悲鳴。
「帝、どうなされました?」
「どーしたー?」
慌てて足を運ぶ重衡の後ろから、のんびりと問いかけながら将臣が続く。
「持ち上げたら、壊れてしまうのだ」
「ああ。そりゃ、固め方が足りないんだ」
必死に、小さな手を合わせて形を保とうとしている崩れかけのうさぎを覗きこみ、追いついた将臣がやわらかく苦笑する。
「一番上手にできたのを、おばあさまに見せるんだもんな?」
「うむ。あ、重衡殿も作ってはどうだろう?」
「そうですね。母上にお見せするのでしたら、私もぜひ」
そうして庭に仲良くしゃがみこむ三つの背中に、身分の違いから声をかけるわけにはいかない盛長がそわそわと気を揉む時間は、残念ながらまだしばらく終わりそうにない。