俺と帝で雪遊び 〜雪うさぎを見せに行く〜
「しかし、本当に愛くるしい」
いろいろと重衡邸で試行錯誤した結果、将臣と言仁は、雪うさぎを高杯の上に作成するという結論に辿り着いた。何度となく作成を繰り返した言仁は、たどたどしさなど見せずに可愛らしい雪うさぎを作成し、こうして意気揚々と尼君に披露するに至っている。
孫がわざわざこの寒い中、庭に座り込んで必死に作ってくれたというだけで、頬はどこまでも緩むだろう。おまけに、出来栄えが本当に、お世辞抜きに素晴らしいのだから、感嘆の言葉はひたすらの感心に満ちている。
「香炉峰の雪もまた素晴らしいのでしょうが、かくな愛くるしさは持っておりますまい」
「おばあさまには、一番上手にできたのを見せるんだって、張り切ってましたから」
投げかけられたのは、きっと知盛や重衡あたりが得意とする雅な言葉遊び。あいにくと将臣にはそれに応えるだけの教養がないので、都合の悪い部分はさらりと聞き流し、後半部分にのみ言葉を返す。
「重衡の邸の庭なんか、すごいですよ。うさぎが山のようにいて」
言仁の知っている立派な南天の木があるという理由で雪うさぎ作成の練習会場に選ばれた庭には、たくさんのうさぎが残される結果となった。晴天が幾日か続けば、皆、水に帰ってしまう。だが、それまではこのままにしておきましょうと。言って淡く微笑んでいた重衡の胸の内は、将臣にはやはりわからない。
一刻も早く将臣と遊びたくて、必死になって手習いをさっさと終わらせたのだそうだ。それからずっと寒い中で手を動かし続けて、やっと満足のいくうさぎを作れたからと清盛邸に戻って時子の許を訪れたことで、言仁の中で何かが切れたのだろう。必死に説明をする傍らからこくり、こくりと舟をこぎだし、今は時子の膝を枕に熟睡している。
「その光景も見てみたいですが、重衡殿がご一緒になって雪の庭にしゃがみこんでいるというお姿も、ぜひに見てみたかったものです」
穏やかな微笑みと共に手向けられたのは、きっとひとひらの偽りもなく時子の本音だろう。言仁と同様に、いわゆる“子どもらしさ”とは無縁に育てられたのだろう青年の、器用ながらも不慣れでぎこちなかった手つきを思い返し、将臣はただ双眸を細める。
寒い中で遊んでいたから、風邪をひかないようにと火桶を焚いて待ちかまえてくれていた部屋の中。汗をかいて既に崩れかけているうさぎが、不意に、少しだけ切なく思えた。
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Fin.