とこしえにも似たるもの
終わった、と。その実感は、思いのほか穏やかな心地を胸に齎した。
心残りがなかったとは言わない。だが、為すべきコト、見るべきモノ、そのおよそすべてはやりつくし、見尽くした。ゆえ、憂いを残し未練を残し、ほんのわずかに悔やみながら、けれど俺は晴れやかな心地で逝ける。
最期にこの目に映したのは、水面に揺れる光。あれほどの血を受け入れてなお、透明に蒼く青く耀くこの海の向こうで揺れる、穏やかな春の日差し。その日差しの降り注ぐ、淡い輝きを放つ蒼穹。それを背に翻る、あの娘の鮮やかな艶やかな、勇壮なる剣舞。
終わりに巻き込むつもりはなかったから、御座舟には置かなかった。けれど、自分達が選んだ終焉のすべてを見届けられるよう、ごく近くの舟に置いた。それは、裏を返せば自分からもすべてが見届けられるということ。
泣きそうな瞳で、あの娘は誇らしげに笑っていた。今にも泣き出しそうな底抜けの笑みで、あの娘は舞い、俺は笑って船べりを蹴った。
ああ、そしてお前はお前の世界に還り、俺は水底の都へと往く。
終わりだ。これで終わった。きっと、次の世にて再びまみえられる。そう、約したのだ。
唇からひときわ大きな気泡がすり抜けて、視界は白く闇に塗り潰される。
なあ、お前は俺のことを、女々しいと笑うか?
敗れたこの身にはもはや必要のないものと、常に俺の命を預け続けた二振りの小太刀を手放し、その俺が最後に触れるのはお前が俺にと贈ってくれた守護の水晶。鎧の下にずっと身につけていたと、お前はきっと知らないのだろうな。
「――■■■■」
次に会ったら、今度もまた、退屈な平穏に文句を言いながら、お前の隣でまどろませてくれ。こうして真の水に包まれるよりも、俺はお前の気配に包まれた、あの水底の眠りこそがいとおしい。
Fin.