朔夜のうさぎは夢を見る

紡がれることを許された現在

「ただいま」
「おかえり。お疲れさま」
「ん?」
「片づけを最後まで手伝っていたんでしょ?」
「ああ」
「あの制服はどうするの? クリーニング?」
「……そのつもりだが」
「ドライマーク? もしかしたら、家で洗えるかもしれないけど」
「………あとで、タグを確認しておく」
「そうしておいて」
「わかった」
「あ、紅茶で良かった?」
「ミルクティーか?」
「そう。たぶん、先にすませてからお給仕してくれたんでしょうけど、疲れたと思うから」
「そう言われれば、少し腹が減ったかもしれん」
「でも、食べるには遅い時間だしね。もうちょっと待って」
「ああ。……というか、お前、どこまで何を知っているんだ?」
「あら、知りはしないわよ? だって、教えてくれなかったじゃない」
「そのわりに、やけに訳知りな物言いだが?」
「そんなの、見ていればわかるもの。あなたが一時期、執事喫茶でバイトをしていたのは有名だし、最近ご飯を食べる量がちょっと控えめだったし、昨日は午後の授業をさぼって将臣くん達と買い物に行っていたし、今日は昼から放っておかれたし」
「それが、どう繋がるんだ?」
「今日着てたのは、バイト時代の制服じゃないの? どうせしばらくは着る用事もないだろうし、洗濯機でジャブジャブ洗えるものじゃないだろから」
「食う量の件は?」
「メインは譲くんが作っただろうから、あなたと将臣くんはデザートやスープでしょ? で、ぶっつけ本番なんてしないだろうから、きっと家で練習して、捨てられなくてちょっとずつ食べていたんだろうなぁ、って」
「昨日」
「あなたの行動は、学内では筒抜けなの。あと、望美ちゃんの目撃情報。今日の分も、知りたい?」
「……いや。いつもの俺なら、今日のお前を放っておくはずがない、といったところか?」
「わたしのうぬぼれじゃないならね。良かったわ、きっと何かあるって信じて、早々に拗ねたりしないで」


勝った試合の勝負の帰結

(勝っても負けても結局、彼女に敵わないことを、彼は毎回思い知るのだ)


Fin.

back

back to それは、無知な無邪気さと引き換えに index

http://mugetsunoyo.yomibitoshirazu.jp/
いらっしゃらないとは思いますが、無断転載はやめてください。