紡がれることを許された現在
「おかえりなさい」
「ただいま」
「紅茶でいい?」
「ああ」
「ちょっと待っててね」
「あ、一緒にケーキを切ってくれ」
「お腹が空いてるの?」
「思い出したら、食べたくなった。まだあるんだろ?」
「あら。じゃあ、やっぱりそういう話題だったの?」
「想像通り、お約束のパターン、というやつだ」
「なぁに? もしかして、望美ちゃんがあなたに渡したチョコが気になったとか?」
「逆だ。お前が俺には違うものを用意したんじゃないかと、疑われた」
「なにそれ」
「義理と本命では、気合いの入れ具合が違うものだろう、と」
「気合いを入れて、レベルを変えられるだけの自信があるなら、ね」
「と、いう話をしたら、驚かれた」
「というか、なんでそんな話をしてるの? 望美ちゃんの生チョコ、ちゃんとできてたでしょ?」
「そうだな」
「だったら、文句も言われないと思うけど……」
「例年に比べてあまりにまっとうだったから、お前の腕が実はもっと上なんじゃないかと疑ったそうだ」
「……指導力があるからには、もっと質のいいものが作れるはずだってこと?」
「そういうことだ。まあ、そういうわけではないと説明してきたが」
「指導力うんぬんはともかく、私も望美ちゃんも、ごく普通の腕前だと思うけど?」
「俺もそう思う」
「じゃあ、どうしてそんな風に思ったのかしら?」
「望美の作品がまっとうになったから、だろ?」
「でも、料理の腕って、そんなすぐに変化しないわよ?」
「指導員が違う」
「というと?」
「身内にも等しい幼馴染に教わるのと、赤の他人に教わるのでは、緊張感が違う」
「ああ、なるほど」
「無意識の甘えさえ抜ければ、本来はあのレベルということだろう」
「幸運による不遇ね」
「気づいていない分、幸福なんだろうがな」
常勝将軍達の聖なる茶話会
(そして彼は、彼女と共にその甘味を食す幸福と幸運を、心から愛している)
Fin.
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