思いを形で
本当はさ、花束とか、用意したかったらしいぜ。
はなたば? それは、そのまま、花を束ねたもの、と思っていいのかい?
そうそう。俺らの元いた世界ではな、花は、こっちみたいに文に添えて贈るものじゃなくて、そのものを贈ることが多かったんだ。
へえ、それはまた、華やかなことだね。
だが、花を束ねるだけなら、いかようにもできただろう? しかも、かの月天将殿のご婚礼とあれば、寺社もが揃って捧げるだろうに。
ただの花束ならな。
と、いうと?
そうだ、もったいぶるな。
それがさ、薔薇の花束が欲しかったんだと。しかも、百本以上の。
はぁ!?
なるほど、薔薇を束にするのは、確かに難しいな。
いやいや、九郎、つっこむのはそこじゃないからな?
なんでまた、薔薇を百本? お前の世界では、それが婚礼のしきたりなのかい?
しきたり、っていうのとは少し違ぇんだけど……。 いつだったかなぁ。前に、話したことがあるんだよ。あっちの豆知識。で、それを律儀に覚えていたらしくて。
将臣、豆知識というのは、豆のように小さな知識ということか?
俺、九郎のそういうところ、結構好きだぜ。
俺もー。
でさ、その中にあるんだ。百八本の薔薇は、結婚の申し込み、ってのが。
お前の世界とやらも、無粋なばっかじゃないんだな。
……そうだな。花の数に思いを託すなど、なんとも奥ゆかしいことだ。
でもさ、こっちの薔薇って、蔓薔薇じゃん。そもそも百も花を集めるのが非現実的だし、束ねにくいし。いろいろあって、断念したってさ。
ふぅん。なんだか、姫君に関する知盛の話を聞いていると、人の評価なんて、あてにならないもんだってしみじみ感じさせられるよ。
確かに、俺が見聞きする限りの知盛殿からは、想像がつかんことばかりだ。
でさ、そんな話をうっかり聞き出したからには願いを叶えてやりたいと思うわけなんだが、お前ら、乗らねぇ?
いいね、乗った! 花を探すのなら、任せときな。
俺も、ヒノエほど得手ではないが、できる限りのことをやらせてくれ。あのお二人には、永遠を夢見たくなるんだ。