カミでさえ動かせない、ヒトの帰結
ゆらゆらと、滲み、溶け出す意識はただ境界をあいまいにぼかしながら、青い青い闇へと拡散していく。
――……どうした?
肩が小さく揺れる気配を感じ取り、何事か面白いことでもあったのかと問いを差し向ける。いまだ名残りとして繋がれている“楔”を介して夢のような世界の可能性を垣間見ても、さほど面白いものなど見当たらないのに。
――異なれども同じと、それが、いったいどの“あなた”に対しても変わらないので。
つい微笑ましくなってしまったのだと。そう告げられれば、彼女が楔の先たる“自分”を示していることはすぐにも察せる。
――けれど、わたしは“わたし”に夢を通じて接触することさえ難しかったのに。
そんなことを詰られても困る。別に、己とて好きであの迷宮の外をさまよい歩いていたわけではない。ただ、あの神子が迷宮に『封じる』と定義した存在から漏れることによる自由が、ああして事の進展を促すための役回りを与えただけだ。
――償えと、そう申されるなら……いかようにも。お応えするが?
ああ、だけどこうして嫉妬をされるのも悪くない。別に自分は“あの娘”を求めていたのではない。あの娘に“お前”を重ね見ていたのだと、知らないはずもないのに。
――巡るまでには、まだ、間がある。
それまでも、その先も。今度こそ、目を逸らさせてはやらんぞ。甘く落とした囁きに照れているらしい腕の中の気配にそっと身を寄せて、彼はただ静かに、ようやく断ち切られた果てなき慟哭の残滓が消えゆくのを見送った。
Fin.