俺と帝で雪遊び 〜かまくらに敗れる〜
憧れていたということは、つまり実態を知らないということ。山を作って穴を掘ればいいんだろ、と軽い気持ちで始めた作業は、初日で早くも挫折した。
「……俺、雪遊びをなめてた」
許可をもらって早々に作りはじめた将臣だったのだが、掘り進むということはある程度の硬さのある雪山が必要なのであり、そしてここにはスコップやらシャベルやらが存在しない。板を適当に借り受けてきて、それをスコップ代わりにしていたのだが、どうにも効率が悪すぎる。結局、大きさをぎりぎり言仁が入れる位に想定しなおし、作れた山の高さは膝を少し越えた程度まで。日が暮れて寒さに耐え切れなくなった時点で、作業は強制終了となった。
手土産の酒のおこぼれにちゃっかり預かりながら、将臣は悲鳴をあげている肩やら腕やらの筋肉をぐるぐるとほぐす。
「重いし、冷たいし、濡れるし!」
「雪は、そういうものだろう」
完全に呆れた目で将臣を見やりながら、女房に言いつけて温めさせた酒をゆっくりと舐めて、知盛は「で?」と話を続ける。
「お前は、何がしたいんだ?」
「かまくらづくり」
そういえば説明がまだだったと、思い至って将臣は身ぶり、手ぶりを交えて鎌倉の外観と作り方の構想、それを使って言仁に何を体験してほしいかを訴える。
「かまくらで、こたつとみかん! 一回やってみたかったんだよな」
「“こたつ”も“みかん”も存在しないが?」
「そこはテキトーにカバーするから気にすんな。とにかく、まだ誰にも言うなよ?」
肩をすくめただけで知盛は将臣の念押しに特に返事をしなかったが、会話はきちんと成り立っていたのだろう。翌日、将臣が意気込みも新たに作業のため邸に赴いてみたところ、何をどう伝えられたのか、力作業ならば空いている人手を貸し出すゆえ、家長に声をかけるようにと。
なんだか彼らの親切を不審に思うぐらいにすがすがしく穏やかな笑みで、行き交う郎党連中にひたすら声をかけられたのだった。
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Fin.