俺と帝で雪遊び 〜かまくらに挑む〜
雪遊びの定番といえば、雪合戦。そう反射的に思いついたものの、参加人数が限られる上、参加者の年齢層があまりにもばらつきすぎるため実行を断念していた将臣がはたと思い出したもうひとつの遊びが、それだった。
鎌倉で生まれ育った将臣にとって、これほど雪が降るのは珍しいし、これほどに積もっている光景も珍しい。だからこそ、実を言えばそれは、将臣自身もいつかやってみたいとずっと憧れていた雪遊びであったりする。
「して、お前は人の邸で、いったい何をやらかすつもりなんだ」
「やらかすって、人聞き悪ぃ言い方するなよ」
一応、先日の重衡邸でやらかしたこととは規模が違う自覚もあり、事前に許可を取るべく邸の主を訪れたのだが、賄賂のつもりの手土産が逆に警戒心を誘発したのか、反応はあまり芳しくない。
「ちょっと、庭の隅を貸してほしいだけだよ」
「父上の邸の方が、広い」
「あっちだと言仁に見つかっちまうし、女房さん達に冷たい目で見られそうだし」
「俺の邸の女房とて、同じような反応をすると思うが?」
「そこはほら、お前が言い含めてくれれば、大丈夫だろ?」
正面の庭は使わないし、邸の裏の庭の、本当に端の端で作業をする。迷惑はかけない。ただ、少しばかり大きなものを作りたくて、完成したそれを言仁に見せて驚かせたくて、できればその中で遊びたい。そんなわがままを叶えてくれそうな邸は、将臣の中で、知盛邸以外には存在しない。
どれほど珍妙なことをやらかそうと、知盛が認めてくれさえすれば、それは無害なことだからと邸の住人が皆、見逃してくれる。非常に基準が偏ってはいるが、平家一門の中で最も寛容なのが知盛邸の特徴なのだ。
「……帝が、楽しめるようなものなんだな?」
「おう」
「そこで遊ぶに際し、邸に害は及ばないのか?」
「遊ぶっつっても、中に入り込むだけで、外に害はねぇよ」
眉間に浅く皺を刻み、しばし黙考してから知盛は溜め息をひとつ。
「桜の根元に作れ。少しでも妙な素振りがあれば、壊す。いいな?」
「サンキュー!」
きっとそう言ってくれると思った、とは言わずに、将臣は満面の笑みで頷いた。監視されるぐらいなら、十分に想定の範囲内。結局、この男は自分を含め、誰にでも寛容なのだ。
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Fin.