新中納言邸のお正月の光景 〜松〜
常緑の枝に何を惹かれたのか、年下の義理の兄にしては珍しく、父の邸の庭の隅の松の下でしゃがみこんでいるのを見つけた。
たまたまその時は他に用向きがあったため、特に声をかけずに通り過ぎたのだが、実は心の隅に引っかかっていた。
そんなことを思い出したのは、同じように庭に座り込む同じ背中と、幼い背中を見つけたからだった。
「……何を、なさっておいでですか?」
問いかける言葉が丁重だったのは、幼い背中の持ち主が、いとかしこき存在だったから。
「あ、知盛殿!」
「ご機嫌麗しいご様子、喜ばしく思います」
振り向いた無邪気な笑顔の向こうには、無残に千切れて地に撒かれている松葉の残骸と、がっくりとうなだれる義理の兄と。
幼子に気づかれないよう小さくため息を飲み込んだのは、なんとなく、状況を読み取れたため。あえて詳細の説明を求めるまでもない。
「帝、尼御前が探しておいででしたよ」
さりげなく小さな嘘をついたが、聡明で優しい母なら、きっとうまく話を合わせてくれることだろう。
明るく頷いて駆けていった背中を見送ってから、今度は隠さずため息を深々と。
「帝と遊ばれるのは、特に何を言うつもりもないが」
負けてこうも落ち込むほど、むきになって取り組むのは、そろそろ謹んではいかがか。
嗜める声はどうしたって幼い弟に向けるものになってしまい、結果として、義兄の機嫌は底を知らぬほどに落ち込んでしまったのだった。
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Fin.