そんな彼らへの彼らの感慨
「そーいうわけでめでたしめでたし、なわけだが」
「まっさか平泉と結ぶとはね。よく考えてるけど、なんかしてやられた感じ?」
「良いではないか。泰衡殿は、真っ直ぐな気性のとても気持ちの良い男だぞ」
「それは結構どーでもいいんだって。問題は、アレだ」
「ああ、そうだね。ここまで一切手出しをしていなかったっていう、ヤツの神経の異常さだ」
「異常……お前、それは失礼だろう?」
「あぁ? いいか、九郎。よーっく考えろ。この前なんか、俺らがどれだけお膳立てしてやった?」
「そうそう。酒入れて、二人っきりにしてやったのに、一切手出ししてないとか」
「これはもう、病気なんじゃないかとか、心配するのが友情ってヤツだろ?」
「ま、病気じゃないってのは証明されたみたいだけど?」
「まーな。最近の知盛、すっげー活き活きしてる。なんつーか、正直すぎていっそカワイイ」
「用があって邸を訪ねて、二人に会ったんだけどさ。両方とも艶っぽくなってたぜ」
「子供が出来んのも時間の問題かぁ」
「この調子なら、子宝にはホント、恵まれそうだよね。ヤツはあれで、子守りは上手いし」
「けどさ、それはいいんだけど、内裏とか、どうなんだ?」
「どう、とは?」
「だーから、知盛は派手に遊び歩いていただろ? その分、どっかで恨みを買ってるとか、ねぇの?」
「過去の清算が終わるまでは文は渡さないって、御館に宣言されてたし、随分奔走したんじゃん?」
「いや、そういう話は聞かないぞ? なんでも、あの派手な夜遊びの噂は、すべてこのための伏線だったらしい」
「は?」
「伏線?」
「ああ。文だけでは失礼にあたろうからと、わざわざ出向いては丁重に断りを入れて、さらには別の男の斡旋も請け負っていたとか」
「……マジで?」
「それ、重衡の間違いじゃなくて?」
「紛れもなく知盛殿だぞ? お蔭でいくつか縁談が進んだところもあったらしい。すっかり恩人扱いだ」
「………アイツ、本気で侮れねぇよな」
「俺も後から知ったんだがな。本当に、御妻殿のためならと労苦を惜しまれない姿は尊敬に値する」
「あの溺愛っぷりをおおっぴらに見せ付けられたら、側室を、なんて話もしばらくはないだろうしね」
「むしろ、両者ともに評価が上がる一方だ。知盛殿がどの姫君にも深入りなさらなかったことを知る分、どうやったらああも男心を捉えられるのか、と」
「ああ、なるほど。それで、最近文の遣り取りが忙しいって」
「けど、それって参考になんの?」
「さあ、俺にはわからん。逆に、貴族連中からの縁談の斡旋をどう断るかについて、今は何かと教えを請う立場だしな」
「あ、それだけどさ。アンタが横恋慕してるって噂が立ってんの、知ってる?」
「はぁっ!?」
「おー怖ぇ。それ、知盛の耳に入ったら、真偽はともかく問答無用で真剣手合わせ決定だぜ?」
「あ、いや、待て! 俺はあくまで知盛殿に相談に行っているのであって――」
「お蔭で、アンタは姫君には興味がなくて、知盛に懸想してるって噂もあるしな」
「……ッ!!?」
「俺、嫌だぜ? 相棒と義妹が恋の鞘当とか」
「あれ? もしかして、知盛って両方イける口?」
「詳しいことは知らねぇけど、イけるんじゃねぇの? そーゆー匂いがするヤツって、そっちのヤツにやったらもてるって言うし」
「ああ、平家の兵が心酔してたのも、ただの忠義心だけじゃないって?」
「そこらの女に骨抜きにされるのは気に喰わねぇけど、月天将なら例外だっての、暗黙の了解だしな」
「ふぅん。面倒な男を選んだもんだね」
「てなわけで、その噂、多分知盛ンとこの郎党の耳に入ったら、邸に入るのも命がけだぜ? その手の奴らに限らず、胡蝶さん信者、多いし」
「お、俺は、断じてそのようなことはッ!!」
「あーあ。オレも、早いとこ相手を見つけよっかなぁ」
「わかる。あの二人見てると、なんつーか、独り身の寂しさが身に沁みるよな」
「けど、この調子だと次は九郎かな?」
「だよなぁ。どっかで強引な姫さんに押し切られそう」
「おい、将臣、ヒノエ! 聞いているのか!?」
「アンタはさ、縁談の断り方より、女の口説き方を知盛に学んだら?」
「本命落とすのに何年かける気だよ! それなら重衡のが適任だろ? いいぜ、俺が話を通しといてやるよ」
そんな彼らへの彼らの感慨
「はぁ、オレ達ってばホント、他人の色恋にここまで協力的なのって、どうよ?」
「ほら、アレだ。情けは人のためならずって。そのうち三倍返しで返ってくるだろ?」
「お前ら、人の話を聞けぇッ!!」
Fin.