盗まれたもの
奴は、とんでもないものを盗んでいきました。
胡蝶さんの心です。
あら、還内府殿はそんなこともおわかりにならないの?
え?
違うわよ。
は?
盗まれたのではなくて、差し上げたの。
あー、でも、なぁ。
還内府殿。女を舐めないでいただける?
へっ!?
女の恋心はね、そんなに簡単に盗み出せるようなものではないのよ。
(うら若き未亡人に、そう、見たことがないくらい艶然と微笑まれてしまっては、返す言葉などあるはずもない)
Fin.