腰なら束縛
最近、随分と体が大きくなってきた十以上も年の離れた弟を肩に担ぎ、重盛は悠々と廊下を歩く。
庭師が大切に大切に世話をしている桜の木の上から飛び降りた手に、枝が握られていた件については鉄拳制裁済み。
もちろん、それが性質の悪いいたずらでないことは知っている。
むくれる弟を担ぎ、向かうのはここ数日寝込んでいる義母の許。
どうか、その愛を忘れないで。まだ幼い弟の細い腰元に、一門を背負う総領は願いを篭めてそっと唇を寄せた。
(小松内府 → 平知盛)
最近、随分と体が大きくなってきた十以上も年の離れた弟を肩に担ぎ、重盛は悠々と廊下を歩く。
庭師が大切に大切に世話をしている桜の木の上から飛び降りた手に、枝が握られていた件については鉄拳制裁済み。
もちろん、それが性質の悪いいたずらでないことは知っている。
むくれる弟を担ぎ、向かうのはここ数日寝込んでいる義母の許。
どうか、その愛を忘れないで。まだ幼い弟の細い腰元に、一門を背負う総領は願いを篭めてそっと唇を寄せた。
(小松内府 → 平知盛)
戦場を共に駆けるからには、傷を負わないわけがなく、傷痕は感傷を呼び起こす。
遠駆けから戻り、愛馬の毛を梳いてやっている中で、知盛はふと懐かしい記憶に行き当たる。
あれは、ある意味では始まりの一戦だった。
あの夜を機に源氏勢は気勢を上げ、あの夜から、知盛の傍らには"鞘"があった。
お前もどうか、いつまでも。すべてを知っているもの言わぬ友の傷痕に、思いを篭めて口づけた。
(平知盛 → 平知盛の愛馬 / 黒陽)
どうやら束の間に自由に飽いたらしく、駆けまわる脚を緩めて近づいてきた黒白の二頭の馬に、家長は首を巡らせた。
二頭は主の自慢の馬だ。速く、美しく、敏く、従順。
しかしそれは対象が主や主が傍に置く姫将軍に限られた場合であり、家長にとって素直ではあるが従えた覚えはない。
なぜ主の許に戻らないのかと、探して軽く周囲を見回して、すぐに納得した。どうやら、二頭は主とその連れに気を遣ったらしい。
だというのに、二頭は家長を急かすように、背後に回り込んで脛を鼻面で押す。勘弁してくれと、大きく嘆息した。
(平知盛の愛馬 / 黒陽と白陰→ 平知盛の乳母子 / 伊賀家長)