朔夜のうさぎは夢を見る

唇なら愛情

 ちゅ、と。やわらかな音を残してそっと離れたかわいらしい唇に、望美は絶句していた。
 誰から聞いたの。どこで知ったの。たぶらかされたの? どうしたの!?
 思いは言葉にならず、言葉は声にならず。
 ただ目を白黒させることしかできない己の神子に、神は無垢な瞳を向けるだけ。
 誰よりも愛する人にする行為なのですよ、と、教えてもらったから、実践しただけなのだ。

(春日望美 ← 白龍)

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喉なら欲求

 その幼い容貌に、色味の違う姿に、けれど惑わされる己を朔は自覚していた。
 決して、決して誰にも告げまいと思う。悟られまいと思う。
 心を平らかに、感情を殺して生きていこうと決めた。
 そのために髪を落としたのに、情動は涸れる様子もない。
 青年の姿を取り戻した白き神の喉元に唇を寄せた瞬間は、二人だけの永遠の秘密。

(白龍 ← 梶原朔)

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首筋なら執着

 ほっそりとしたうなじが日の光に晒される様子は、実に扇情的だった。
 纏うの墨染の衣も、潔く切りそろえられた髪の艶やかさもまた拍車をかける。
 御仏に身を捧げ、心を捧げ、世俗から切り離されて生きるはずの尼僧。
 そんな浮世離れした身でありながら、戦場に身を投じるというこの矛盾。
 だから思わず唇を寄せたのに、ヒノエがその心を恋の炎にくべることは、叶わなかった。

(梶原朔 ← ヒノエ)

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いらっしゃらないとは思いますが、無断転載はやめてください。