耳なら誘惑
そっと耳朶を食んで、幼子の風貌に身をやつした老人はわらった。
おいで、おいで。やさしくいざないながら、もう一度、口づける。
道を示そう。導を灯そう。
続く道の果てには、きっと楽園が待っている。
おいで、おいで、愛し子よ。
(平惟盛 ← 平清盛)
そっと耳朶を食んで、幼子の風貌に身をやつした老人はわらった。
おいで、おいで。やさしくいざないながら、もう一度、口づける。
道を示そう。導を灯そう。
続く道の果てには、きっと楽園が待っている。
おいで、おいで、愛し子よ。
(平惟盛 ← 平清盛)
はじめこそ不思議そうにしていたものの、幼子の順応性は素晴らしかった、
同じ年頃の子どもが手近におらず、寂しかったのだろう。
おじいさま、と呼びかける一方、祖父にするのではない距離にすり寄ってくる。
額を寄せ、鼻梁に口づけ、ふふふと笑う瞳はいとけない。
溢れる思いの矛先に、何か動物でも与えてやるかと、祖父は思案する。
(平清盛 ← 平言仁)
きらきらと瞳を輝かせて、おぼろげな記憶を適当に繋ぎ合わせただけの物語に聞き入る子供は愛くるしい。
いと尊き身空でありながら、子供はけれど、望美にとってはただの幼子だった。
隠すことなく向けられるあたたかな思いには、まっすぐに答えたくなるのが人情。
そして、罪のないいたずらを仕掛けてみたくなるのが女心か。
まろやかな頬に唇を落とし、こっそりと耳元で囁いた。親愛を示す方法を、教えてあげようと。
(平言仁 ← 春日望美)