朔夜のうさぎは夢を見る

裸エプロン

 これは冗談半分で入れてみたんだけどな。
 こんな悪ふざけをしかけても許されるって確信できるくらいには、俺は知盛と深い関係を築けている。
 で、胡蝶さんも然り。……の、はずだ。

「おはよう、胡蝶さん」
「おはようございます。将臣殿」
 意味を聞かれたのは昨日の昼だった。ってコトは、実行は昨日の夜だろ。たぶん。さすがに昼間にやらかすとは思わねぇ。
 よって、今日は問答無用で叱られたり無視されたりを覚悟してたんだけど、あっけないほどに何もない。
「良く眠れたか?」
「ええ、お陰様で」
 鎌をかけてもノーリアクション。胡蝶さんは案外隠し事が下手だから、これはマジで何もなかったとみていい。

「ただ」
「ただ!?」
 続けられた言葉に、ついうっかりがっつり期待しちまったんだけど。
「将臣殿にお会いしたら、この季節では病を得かねないゆえ、夏まで待つのだとお伝えするように、と」
 俺の食い付きに目ぇ円くして、胡蝶さんはそんなコトをのたまってくれた。
 何のことかご存知ですか、って、ばっちりご存知だけど何も言えなかった。
 意外な気遣いに唖然とするべきなのか、それをあえて胡蝶さん経由で伝える意地の悪さに呆れるべきなのか。
 とりあえず、ボロが出ないうちに撤退することにした。

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耳掃除

 これも今さらだろうけど、外せないだろ。
 てなワケで盛り込んでおいた。

「将臣殿ッ!」
 めっちゃ怒ってます。いっそ殺気立ってます、って感じのわかりやすい声の主は、珍しいことに胡蝶さんだった。
 ……心当たりは、ありすぎてどれだかわかんねぇ。
「将臣殿ッ!!」
 知らない振りしたいなー、とか。ありえない選択肢に思いを馳せてたら、ムシしてんじゃねぇよコラ、って空気に切り替わった。
 胡蝶さんは、あれで意外に過激な性格をしてる。
「知盛殿に、何を吹き込まれたのですッ!?」
 気付けば痛いほどに肩を掴んで振り向かされてた。
 気配を感じさせないあたり、さすがは月天将。なんてな。
「ナニを、って。そりゃ、イロイロ?」
「イロイロは結構ですが、わたしを巻き込むのはおやめください」
 びしっと、それはもうわかりやすく『怒っています』って表情で詰め寄ってきたんだけど、どこかに優しい諦めが滲んでいるところが、俺がこの二人のことをすごく好きな理由のひとつだ。

 まあ、それでも顛末は気になる。きっと俺に言うだけ無駄だって諦めてくれてるだろうから、一応「悪ぃ」って謝るだけ謝って、聞いてみることにする。
「ちなみに、ナニされたんだ?」
「………言いたくありませんッ!」
 真っ赤になってそっぽを向いた横顔が可愛いとか思ったのは、知盛には内緒にしとく。真剣手合わせはゴメンだからな。

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いらっしゃらないとは思いますが、無断転載はやめてください。