俺の好きなところ
いい酒が手に入ったって誰かが言いだすと、自然と宴になる。
平家の連中は、基本的にお祭り騒ぎが好きだ。
貴族みたいな感じの奴もいて、雅やかなコトが好きなのかと思ってたんだけど、それだけじゃねぇんだよな。
そーゆーなんだか庶民っぽいところが、俺は結構好きだ。
で、そーゆー庶民っぽい一面が、酒が入るとより激しくなる側面がある。
今回なんか、そのいい例だな。
なんつーか、珍しく知盛が考え事をしながら酒をぼんやり飲んでてさ。
俺も「お?」って思うぐらいだから、周りのもっと知盛のことを知ってる連中からすればあからさまなわけで。
さすがに兄弟歴長いらしくて、重衡が「何がございました?」ってさらっと聞くわけだ。
ここで、何か、じゃなくて、何が、って聞くあたり、重衡はさりげに容赦がねぇ。
どーすんのかなぁって見てたら、本っ当に珍しいことに、あの知盛が重衡にうっかり相談とかしてた。
でさ、それを俺だけじゃなくて周りの連中が気にしないふりをしてめっちゃ聞き耳を立ててるんだ。
そーゆーところが庶民っぽいんだけど、こうやって誰かの悩み相談室になったら、後からでもさりげなくフォローが入る。
そーゆーところは庶民っぽいっつーか家族っぽくて、俺はやっぱり好きなんだけどな。
奴のカワイイところ
あー、うっかり肝心の知盛のことを忘れてた。
まあ、なんだ。これもまた結構な傑作なんだ。
知盛の悩みの種は、簡単に言っちまえば「女心がわかんねぇ」ってことだった。
噂に聞くだけでも相当に遊びまくってるアイツにわかんねぇんなら、俺にはわかるはずもねぇ。
が、アイツ以上に女ったらしってことで有名な重衡の手にかかれば、立派な相談会になるんだから恐ろしい。
なんでも、どっかの姫さんなのかな? その人に、褒め言葉のつもりで「最近ちょっと肉づきが良くなった」みたいなことを言ったらしい。
俺の感覚からいけば自殺行為以上の爆弾発言だけど、この世界は俺にとっては過去にも似てるわけで、普通にプラスの言葉なんだってさ。
なのに、どうやらその姫さんにとっては地雷だったらしくて、臍を曲げられちまったんだそうだ。
超しみじみ「女は、まことに……わからん」とかなんとか言って酒飲んでるのがなんだか妙にカワイイ感じでさ。
コイツでも恋愛沙汰で悩むことあるんだなぁって思ってたら、重衡のが一枚上手だった。
一体どこを見て触ってそう思って、それをどう感じたのかを言えばよかったんだって、大真面目に語りだして。
そのまま非常にオトナな会話になるニオイがしだしたところで、俺は敦盛とセットで経正にかっさらわれた。
悩みなんか何にもなくて、超ジャイアニズムを貫いて生きてるようにしか見えねぇ知盛が意外に庶民的な悩みを抱えてるってことが、なんだか新鮮だった。
そーゆー一面を見せれば、きっとその姫さんもまぁ、許さないことはないんじゃねぇかと思うんだけど、その辺は後からのお楽しみってとこだな。
とりあえず、俺が重衡に恋愛相談に行く日は遠いんだろうなってのは、確実だけど。