朔夜のうさぎは夢を見る

台所事情は主次第

 知盛が風邪をひいた……らしい。
 まあ、らしいってのはうっかりたまたま重衡から聞いただけだからであって、それに風邪かどうかもわからないからだ。
 近代医療に馴染んだ俺にしてみれば、この世界の病気も怪我も、信じられない対処が多い。
 あんだけ図太そうなくせに、あれでいて知盛は体が弱ぇ。
 二日酔いとか単に眠いからとかで寝てることも多いけど。
 とりあえず、今回はそういう理由じゃなくて、どうしようもなくて寝込んでいるらしい。


 昔っから体が弱いって話は、清盛からも尼御前からも聞いてる。
 その分なのか何なのか、知盛の邸で出される食事は、他の奴らのとこに比べてしっかりしてる。
 豪華って意味じゃなくて、栄養バランスを考えたメニューっつーか、型破り? そんな感じだ。
 茶も結構な頻度で出されるし(これは清盛が優先的に知盛ンとこにまわしてる)、動物性タンパク質もそれなりの頻度で出てくるし(知盛は狩が趣味らしい)、何よりあったかいうちに食える。コレが大きい。
 その辺を学習した俺は、結構な頻度で用事を見つけては知盛ンとこに転がり込んでご相伴に預かってるから、アイツが寝込んで引き篭もると、食事に物足りなさを感じるわけだ。


 まあ、仮にも"義兄上"なわけだし?
 一日も早くアイツが復活して俺の健全な食生活もついでに復活するように、今回こそこっそり見舞いにいこうと思う(だっていつも止められるんだ。穢れが云々って)。

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欠食児童の引越し願望

 あんまり酷いところに乗り込んでもなぁ、と思ってちょっとは遠慮したんだが、とりあえず、知盛ンとこに行ってみた。
 警備の御家人連中も顔パスだし、女房さん達も俺のことは覚えてくれてる。
 何がいいか思いつかなくて、治ったら飲もうぜ! って意味で酒を土産に訪ねてみたら、意外にウェルカムな感じだった。
 なんでも、ちょこーっと熱が出ただけで、仕事も忙しくないからって念のために休んでみただけだったらしい。
 ま、健康第一。何事もなかったんなら、それでいいんだけどな。


 酷い時は塗篭って部屋にリアルに引きこもるらしいんだけど、今回は曹司でのんびりしてるらしい。
 確かにのんびりしてた。すっげーつまんなそうな顔で書類っぽいの読んでたけど。
 酒を見せたらにったり笑って、後で呑もうぜって話になってそのまま夕食を一緒にとることになった。
 で、何より驚いたのが、この病気療養中専用特別メニューの豪華っぷり。
 出てきたのは雑炊っぽいのと菜っ葉の塩漬けっつーシンプルなメニューだったんだけど、雑炊がすげぇの。
 卵も野菜も魚肉も入ってて、ほっくり仕上がってるのが小さめの鍋で出されてさ。
 いつものちょっと若い感じの女房さんが一緒に来て、器によそってくれるサービスつき。


 俺のこと養ってくれてる清盛に、文句を言うつもりなんかさらっさらないんだけど。
 引っ越してきたいなーって、結構リアルに思っちまった欠食児童な俺は、とりあえず食える時にたらふく食うっつー結論に落ち着いて、たんまりおかわりをしてみた。

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いらっしゃらないとは思いますが、無断転載はやめてください。