年上趣味なアイツ
しっかり着るのが面倒だからって適当に上着を肌蹴ていたら、通りがかったけっこう上な感じの女房さんにめっちゃ叱られた。
こう、遠まわしに、やんわりやんわり、けど容赦なくぐっさり?
女房さんって、簡単に言えばメイドさんの平安版だと思ってたんだけど、どうも違うっぽい。
なんつーか、もっと権力がある感じだ。
清盛ンとこの女房さんは、さすがに時の権力者なだけあってスゴイ人揃いなんだそうだけど、知盛と重衡ンとこもそれなりにスゴイ。
重衡ンとこは、なんつーか、恐れ多い?
美人さんばっかで、しかもみんなきらっきら。たぶん、流行最前線のお姉さま方揃い踏みってヤツだ。俺には太刀打ちできねぇ。
うっかりおもちゃにされた記憶は、できれば葬り去りたいのに強烈過ぎて忘れられねぇ。
知盛ンとこは、意外にも女房勤めの鑑みたいな人ばっか。そういう意味では清盛の邸に近い。
んで、さらに意外なのは、重衡のとこよりもさらにお姉さまな感じの、妙齢のお姉さま方揃いってとこだ。
年が近そうな女房さんは、見た感じ一人だけだった(しかも、女房さん達が揃って「あの方は」って笑いながら口を濁してたから、ちょっと特殊例だ)。
アイツ、もしかして年上趣味なのかもしれない。今度、その辺しっかり探ってみようと思う。
女房さん的標準スキル
ショックだった。マジでショックだった。
いや、悪ぃとも思ってんだけど、それ以上にショックだった。
今日は知盛の邸に邪魔して、剣の稽古に付き合ってもらったんだ。
アイツが平家では一番の使い手だって聞いてるし、アイツ相手なら気楽だしな。
で、それはいつものことなんだ。場所とか違うけど、いつものことだからまあいいんだ。
けど、問題はそこじゃなくて、女房さんなんだ。
知盛ンとこの女房さんは基本的にめっちゃ気がきくから、稽古の間に水とか手拭いとか、とりあえず色々用意してくれるんだ。
それはいつも知盛よりちょっと年下っぽい女房さんなんだけど、その人がたまたま階まで来たところで、たまたま俺が刀を弾かれて、たまたま飛んでったわけだ。
うわマジィ! って、本気で焦ったんだ。だって、怪我ですめばまだマシだ。使ってたのは、真剣だからな。
真っ青になって叫んで走って庇おうとしたんだけど、女房さん、あっさり避けてくれてさ。
さすがに着物ごと床に刺さっちまったんだけど、慌てず騒がず、観察してた知盛に向かって「床に傷を。申し訳ございません」だぜ? しかも、知盛も当然って顔してるし。
そのまま慣れた感じで刀を返してくれて、着替えてこいって言われてさっさか奥に引っ込んじまったんだけど、これが知盛の邸の女房さん的標準装備なのか?
思わずぼけーっと見送っちまった俺に、しかも知盛が「せめて、あれぐらいはできんとな」とか言ってくれるんだぜ!?
マジでショックだった。つーわけで、明日から素振り千回追加することにした。