俺と奴らの識字率
文字の読み書きができないのは不便だと、なぜそんなことをぼやいてしまったのか。
俺は一昨日の俺の首根っこを掴んで、目の前に正座をさせてひたすらに説教をしたい気分に駆られている。
つまり、なんだ。ほら、俺にとっては識字率がほぼ100パーのあの世界が常識なわけだ。だから、文字が読めない自分ってのに、違和感を覚えるわけだ。
でも、だからってこんな本格習字、しかもあの、どっかの掛け軸とかにありそうな、にょろっと崩れたあの文字の書き方を、こんな風にやらされることになるとは思わなかったってわけなんだよ重衡!!
………まあ、嘆いても仕方ないしな。文字が読めるようになると、ちったぁ暇つぶしの幅も広がるだろうし。
つーか、清盛がすっげぇ喜んでるし。
珍獣兼、息子の身代り的ペットな俺は、心底人の良いあの連中を悲しませるようなマネはできない。
と、いうわけで、剣とか弓とか馬とかだけじゃなくて、手習いとかいう習字の時間が追加された。
ついでに舞だの歌だの教えてやるって言われたけど、その辺は丁重にオコトワリした。無理。あれは無理マジ無理。
欲張りすぎても無理だって言ったら納得してもらえたからよかったんだけど、あの分だと、今後の逃げ方も考えとかないといけねぇ気がする。
めっちゃ頭が痛ぇけど、ホント、今さらだしな。
とりあえず、重衡センセイを怒らせない程度には努力したいと思う。
あの知盛をして「とんでもない」って言わせる重衡の怒ったところとか、見たいとか思うヤツの気がしれねぇし。