ふたりきりの夢を見た
死を自覚した瞬間、脳裏をよぎったのは後悔と充足感だった。
後悔は仲間への。エクソシストは存在自体が貴重だというのに、こうして一歩先に戦線を離脱しなくてはならない己が悔しかった。彼らと共に、終焉を見届けたかった。それが叶わないことへの、未練。
充足感は己への。少なくとも、やれることはやり尽くしたという自負があった。志半ばだろうと何だろうと、ここが自分の終焉なのだと、根拠のない納得が胸の奥底から湧きあがるのを感じていた。やれることはやって、後は仲間に託せば良い。己のすべてを余さず明け渡せるそれは、至福の信頼。
そして、ほんの少しの愛惜と自己憐憫。
鞘になると決め、隣に在ることを許され、背を与り、命を預けて今日まで駆け抜けてきた、誰よりも大切な人。その人との永訣こそが、今。
他の誰よりも彼の傍にいるという自負があったからこそ、再会したとき、その、何よりも特別な場所がかつてよりも特殊性を失っていることが切なかった。明け渡すことが寂しかった。子供じみた独占欲と、わかっている。わかってはいるけれども、寂しくて、切ない。
彼は、知らないうちに多くの傷を負って、知らないうちに多くの糧を得ていた。ただ約束を追いかけ、互いしか見えていなかった頃とはもう違う。約束の成就は彼を枷から解き放ち、彼の世界から境界を取り払った。
今の彼にとって、自分は寄り添うための鞘ではなく、縛り付けるための鞘になっているのではなかろうか。いつからか燻るようになった不安を、結局ぶつけることも払拭することもできないまま、鞘たる自分は朽ちてしまう。そして、刃たる彼は未だ折れず、これからも戦場を駆けていくのだ。
揺らぐ視界。滲む聴覚。拡散する意識。
遠ざかる世界に、最後に映ったのは蒼黒い絹糸の滝。
「――ッ!!」
もはや聴き取れるはずもなかったそれが、自分を呼ぶ彼の声ならばいいのに。
最後の最期まで彼を求めていた自分をようやく自覚して、最期の最後で、彼女は己が彼に恋心を抱いていたことをようやく認識した。
初恋を思い知り、同時に失恋を。
想い、そして識ったのだ。
Fin.