朔夜のうさぎは夢を見る

もうおしまい

 触れてはならぬと言い含められていた神剣を手にした途端、何かに憑かれたかのように神田は戦場の只中へと駆け込んでしまった。
 夜闇に映えるは蒼白の刀身。醜悪な異形の化け物を切り裂き、時にその剣気を異形の使い魔と変えて戦い続ける担い手。月明かりに照らされ、闇を纏い闇を切り裂き走る少年はまさに鬼神のごとし。妖しく、恐ろしく、美しく艶やか。
 知らず震え出した身体を預けられた鞘ごと掻き抱き、は込み上げる嗚咽を必死に噛み殺した。返り血に濡れた白磁の肌はあまりに美しく、剣と共に翻る黒絹の髪はあまりに美しく。過ぎた美しさを天に地に示す少年が人の枠を踏み越える錯覚と幻視とが、少女を冷ややかに支配する。
 視たくなど、知りたくなどなかった。それでも少女は既に、迷い込んだ道行きの凄惨さまでもが哀しいほどに美しく少年を彩ることを知ってしまったのだ。

Fin.

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いらっしゃらないとは思いますが、無断転載はやめてください。