朔夜のうさぎは夢を見る

変則的な感情

「もしかして、単に世話焼きなだけなのか?」
 不機嫌絶頂でも、多少和らいだ不機嫌さでも、凛と伸びた背筋と歩みにつれて揺れる長い髪は変わらない。後ろ姿さえ絵になるのは、やはり立ち居振る舞いの基本が美しい証拠だろう。取り留めのないことを考えながら件の食堂で補充してきたばかりのコーラを口に含み、リーバーは小首を傾げる。
「わっかんねえ」
 もっとも、結論は唇から零れ落ちたひと言に集約される。そもそも、あのクロス・マリアン元帥をして「よくわからんが、とりあえず切れない関係」と言わしめたのだから、それも当然か。
 本日の観察の成果は、少年はどうやら少女の居所を把握していないと落ち着かないらしい、という存外かわいらしい一面の発見だ。それが肉親への情に似た気持ちに起因するのか、想い人に寄せる恋心に起因するのかで話の色合いは大分変わってくるのだが、当人の中でも定まっていないらしい感情に他人が名をつけることなど適うはずもない。
 とりあえず、そういう素直な反応を普段の言行に取り入れてくれれば、もう少し円満な人間関係を築いてもらえるのだろう。本人がまるで気にしていない以上、それは無駄な願いでしかないのだが。
 付け加えるべきひと言は、一科学者として納得のいく結論に辿り着くまで、これまでどおり彼らの観察を続ける所存であるという決意表明。
 息抜きの散歩を兼ねて補給したコーラを過剰に消費しないうちにストローから口を離し、内心で今後の方針をひとり確認したリーバーは、変わらぬ地獄絵図が広がっているだろう持ち場に向けて足を踏み出した。

Fin.

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いらっしゃらないとは思いますが、無断転載はやめてください。