願わくはどうか
なんと罪深いのか。
神の結晶は、アクマに囚われた魂を救済する唯一の手段。
だというのに、神に魅入られたエクソシストたちはみな、あまりに重いものを背負っている。
そんな理不尽は納得できないし、認めたくもない。けれど、きっとそれは出会ったことのないエクソシストを含めた全員に共通で、神田も例外ではないのだろう。
コムイの見せた憂いが、その話を耳にした途端少しだけ沈んだ部屋に居合わせた科学班員の空気が、あの一見冷徹なエクソシストの抱える哀しみの深さを何より雄弁に語っていた。
不幸を較べることはできない。自分の負っているものと、神田の負っているものを較べる気にはならない。でも、身も心も引き裂くような言葉を紡いでいた神田が、それこそ救いようのない犠牲を抱えて今も足掻いているのかもしれないと思うと、アレンは酷く悲しくなった。
いつか、その悲しみが癒える日が来ればいい。
それまで、その悲しみを分かち合い、傷の痛みを慰めることが出来ればいい。
本人に告げたらば、それこそ瞬時に抜刀され、問答無用で斬りかかられるに違いない。ほんのわずかな時間を共に過ごしただけではあるが、自分の祈りが神田の矜持とか覚悟とか、そういったものを穢しかねないことをアレンは知っていた。しかし、それでもと願う。
傲慢かもしれない。けれど、どうか彼が救いのある未来に辿りつけるように。
そんな願いを胸に抱いて、アレンは不自然な明るさの奥に悲しみの残滓が燻る司令室を後にした。
Fin.