繰り返す日々に
その瞬間は、いつ何時においてもまざまざと思い返すことができる。
何ものにも染まぬ生粋の黒でありながら、奔らせるのは真逆たる生粋の白。揺るぎない存在感ととてつもない圧迫感をもって感覚のすべてを塗りつぶす光の中で、差し伸べられたのは冴え冴えとした蒼銀色だった。
ひやりとした感触は恐怖ではなく安堵をもたらし、ゆらゆらと揺れる様は不安ではなく郷愁を掻き立てる。決して力強いわけではないが、白の中に埋もれそうだった己を確かに包み込む。そこは、あるべき場所であり還りつくべき場所。
暴れまわる白が徐々に削がれ、収められていくのを感じて意識を落とす。あまりにもその気配に馴染みすぎていたことが、この異常な事態への違和感を覆い隠す。願いが実現しているという優しい事実は、その時に限っては哀しい矛盾への道筋にしかならなかった。
白色も蒼銀色も消えて、残ったのは闇色だけ。手の中に残されたそれを見るまでもなく、少年は確信を抱いていた。消える瞬間を網膜に焼きつけることは適わなかったが、神経の一部を削り取られたような感触は覚えている。
あって当たり前だった、あるべきだったものがごっそりと抜け落ちた、絶対的な喪失感。唯一の救いは、そこに死の気配を感じなかったこと。潰えたのではなく、持っていかれた。言葉に当てはめることのできない、直感にしかならない確信をよすがに、少年は約束の履行だけを考えることにした。
還れない場所に行ってしまったのでなければ、必ず隣に帰ってくる。それは信仰にも似た信頼。祈りにも似た渇仰。大事なもの、譲れないものを複数抱えるには、自分はあまりに脆弱。既にこの上なく重い約束を抱える身に、その他のものを背負うゆとりなどありはしない。それほどに重い約束であることを知っている。
違えられない約束を果たすのは二人の宿願。同じ場所を目指す以上、遠からずきっと彼女に廻り逢える。その時までに足踏みをするようなことがあり、それを自分が足枷となったためと思った暁には、彼女は悲嘆の海に沈むだろう。だからこれまでどおり約束を守ることに全力を傾ける少年が少女に預けられるのは、余すことなき信頼のみ。
信じている。信じているから。だからここに還ってこい。
胸の内でさえ明確な形などなさない思いには見向きもせず、しかし形にならないことをいいことに制限すらかけず、少年は無音の叫びを上げ続ける。
――俺は、ここにいる。
Fin.