風邪予防にはのどに布
蒲柳の質を持つ主は、季節の変わり目にはよく風邪を引く。
とはいっても、決まりきっての風邪ではなく、時に熱を出し、時の喉をからし、時には頭痛で凶悪に不機嫌な表情を曝し。
その時々で必ずと言っていいほど症状が異なるため、まずは引かないように予防し、引いてしまえばそうそうにその症状を看破する必要がある。
それでも一応、傾向はある。とかく、主は喉が弱い。
最終的にどこの風邪に行き着くかはともかく、初めはけほけほと空咳をこぼしている。
よって、空咳が耳につくようになったら、娘は主の寝床に寝具とは別に、端切れを縫い合わせたものを用意する。
ちらと一瞥した主は嫌そうな顔をするが、差し出されたものを拒むようなことはしない。効能は既に実証済みなのだ。
むっつりと黙りこんでいる首元にそっと巻きつけ、満足げに笑えば溜め息がひとつ。
「……かくな真似を俺にするのは、お前ぐらいなものだな」
「主の体調に気を配るのも、女房としての務めなれば」
しれっと答えながらも声がひそかに笑うのは隠しきれない。無論、それに気づいているだろうに、主は何も言わない。
その時々の娘の気分で、結び目がさまざまに変化していることにあえて触れないのは、きっと主たる青年の精一杯の抵抗なのだろう。