肩こりには竹刀の素振り
体を鍛えている生粋の武人とはいえ、主は同時に宮中において位厚き公達がひとり。
また、幾人もの家人を抱える主人であればこそ、書類仕事は存外多いらしい。
眉間にぐっと皺を寄せ、いかにも退屈そうに、あるいは難しい貌をして書簡を睨む姿は、昔も今も変わらないのだろう。
本人は嫌で嫌でしょうがないのだろうが、そんな姿を見ると改めて、ああ、仕事をしているのだなぁとしみじみ感心してしまうのだ。
さてさて、書類仕事が多くなれば、当然のように肩が凝るものらしい。
鍛えていればこそ大して痛手はないのだろうと思っていたのだが、主のいわくそれは逆。
鍛えていればこそ、慣れない筋肉を慣れない状態で凝りかためておく書類仕事は、非常に疲れるものなのだそうだ。
なればと思って時に肩を揉んでやっていた娘だが、その傍ら、家長をはじめとする郎党に相談して、ひそかに試行錯誤して作っていたモノがある。
「なんだ、これは?」
「これは、竹刀と申しまして」
実物は触ったことがないため、すべては娘の思い込みでしかないのだが、なんとなく、それっぽいものが完成した。
自分で試しに扱ってみても、悪くない。さてはてと思って主に渡し、娘が要求するのはそれを用いての素振りをしばし。
効果のほどはよくわからなかったが、とりあえず、主はそれそのものを気に入ったらしく愛用しているので、まあ良いかということにしている。