不眠には足の運動
主の不眠を見つけた時、そこに自覚があろうとなかろうと、娘はまず主に湯あみを勧めることにしている。
詳しいことは忘れたが、確か、睡眠導入には体温をしっかり上げて、そこから下降してきたところで床に就くのが効果的だったと記憶している。
寝酒は、ほどほどまでならともかく、過ごせば目が冴える要因にしかならない。
代わりにいくらか薬草を煎じた白湯を渡し、不満げな様子はあえて黙殺して、主を床へと誘うのだ。
床に誘い、次に娘は主の足に触れる許可を得る。
燭台のわずかな明かりを頼りに、足の裏を丁寧にもみほぐし、足首をぐるぐると回し、それからふくらはぎを慎重に辿る。
特に、左のふくらはぎの中で硬いところを見つければ、そこを徹底的にもみほぐす。
これはまだ寺で世話になりはじめた頃、心身ともに疲れ果てているのに眠れない娘に、住職が教えてくれた知恵だった。
住職は娘に自分でできるようにと教えてくれたので、もしかしたら、こうして動くことで疲れをさらに誘発することが目的だったのかもしれない。
だが、試してみれば確かに主が眠りやすくなると言ってくれたので、娘はそれを信じている。
閨にあって、男の体を辿る女。
傍から見ればいかに艶やかな状況であるかなど、この時の娘の頭には掠りもしないのである。