朔夜のうさぎは夢を見る

不眠にはかすみ草

 日を追うごとに不機嫌さが増していく主を見かけた時は、一に体調不良、二に宮中での面倒事、三と四は面倒だから割愛して、五に寝不足が疑われる。
 日を追うごとに、と、その期間も重要だ。
 三日ほどの連続性は確認すべきとして、四日目になってぐっと状況が悪くなれば体調不良確定。
 朝よりも夕方の方が機嫌がわずかによければ、十中八九は宮中での面倒事。
 三と四の場合はどこかしら、別の人間から機嫌伺いなり状況把握なりの打診が入るため省略。
 寝酒にと要求する量がやや増えたり、逆にやけに早く床に就く傾向がみられれば、恐らくは寝不足。しかも、寝つけない、眠れないがゆえの寝不足だ。


 日頃は人のことを枕にして眠るくせに、こうして不眠の症状が現れると、途端に主は塗籠に引きこもる。
 誰も寄せ付けず、誰にも心を開かず、一人暗闇の底に沈むことで、ひたすらに睡魔の指先を探るのだ。
 機嫌が下降しはじめてから四日目にして塗籠に篭もりはじめた主を見て、娘は推測を確信に変える。
 そして、自室の唐櫃の中から、厳重に紙と布とで包んだとある花を乾燥させたものを取り出して、主のための褥を調えた際、そっと枕の下に忍ばせる。


 かくして翌日はほんの少しだけ機嫌のよくなった主をみられれば娘の勝ち。そうでなければ、娘の負け。
 勝てばそれまでだが、負ければ次の手段を考える。さて、次はいったいいかにしようか。

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