朔夜のうさぎは夢を見る

平参議殿の場合

 よお、“兄上”。腹は括れたか?
 随分とまあ、器用に逃げ回ってくださったものだ。
 おかげで、随分とあちらこちらを訪ね歩くことになったではないか。
 で、いったいどこをどう回ってきたんだ?
 俺はすぐにも諦めて戻ってくると、随分と長いことこちらで待たせていただいたのだが。

 しかし、想像以上に歩き回ってきたようだな。
 おまけに移り香を纏って戻られるとは……よもや、いずこかの花の褥で、まどろんでおられたか?
 ………冗談のつもりではあったが、こうも生真面目に否定していただけるのは、何とも妙な心地だな。
 お前、女よりも男が好みなのか?
 ああ、いい。うるさい。黙れ。
 俺は別に、お前の趣味になぞ口を出す気はない。アレに、手出しをされるのでなければ、な。

 なんだ、その疲れ切った溜め息は。まこと、失礼なことだ。
 さて、知らぬがゆえとはいえ、御身がいったい何をしでかしたかは、ご理解いただけたようだな?
 では、これは俺からの祝いの品であり、詫びとしての要求だ。
 来いよ。舞扇を用いての詫びなぞ、舞台以外のいったいいずこで適うというのだ?
 時間は存分にやったろう? 観念して、腹を括るんだな。

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