朔夜のうさぎは夢を見る

薩摩守殿の場合

 これは、将臣殿。かような場所でお会いするとは、珍しい。
 さては、知盛殿から逃げておられるな?
 はははっ! 先ほど、知盛殿にお会いしてな。居所を訊かれたばかりであった。
 いやいや、さすがは我らが還内府殿。かくなことでも、勝負運に恵まれておられるか。

 おお、そういえば。聞きましたぞ。
 なんでも、胡蝶殿に繕いものを頼まれたとか。
 まあ、他意がないのはわかっておるが、これに関しては運が悪かったとしか言いようがあるまい。
 腹を括って、洗いざらい白状なさるがよかろう。
 知盛殿とて、そのあたりは心得ておられようからな。
 向後のための、牽制といったところであろうよ。

 と、そうそう。忘れるところであった。
 先日、もう少し動きやすい沓が欲しいと言っておられたのでな。
 知っている商人に、少し声をかけておいた。
 近く、空いている日に呼び寄せるゆえ、ご都合を後ほどお聞かせ願いたい。
 なに、気になさらず、たまには年寄りに甘えるものですぞ。それが、若者の特権ですからな。

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