頭の君の場合
これは“兄上”。いかがなさいました? かように挙動不審なご様子で。
……おや、これは失礼を。
して、将臣殿。いかがなされたというのです?
こちらにいらっしゃるのもさることながら、かくも大荷物を抱えられて。
不可抗力? なるほど。皆さまから渡されたとあらば、断れませんね。
しかし、でしたら戻られれば……いえ。そうですね。
本日は兄上から逃げていらっしゃるのでしたか。
おや、違うのですか? しかし、ふふ。既に有名な噂ですよ。
何せ、兄上が御自ら、至るところを歩き回っておいでですからね。
すれ違うばかりと申されるなら、運が良いやら悪いやら。
けれど、どうです? 将臣殿も、かなり歩き回っておいでなのでしょう?
このあたりで、一服なさっては。
ちょうど、良い酒が手に入ったのですよ。
さほどの量もありませんし、日も暮れてまいりましたし。ここは、二人だけの秘密で。
ああ、どうぞご安心を。兄上は、先触れなく我が邸に踏み入る方ではございませんゆえ。
さあ、まずは一献。
私の盃を、どうぞ受けてください。