朔夜のうさぎは夢を見る

頭の君の場合

 これは“兄上”。いかがなさいました? かように挙動不審なご様子で。
 ……おや、これは失礼を。
 して、将臣殿。いかがなされたというのです?
 こちらにいらっしゃるのもさることながら、かくも大荷物を抱えられて。

 不可抗力? なるほど。皆さまから渡されたとあらば、断れませんね。
 しかし、でしたら戻られれば……いえ。そうですね。
 本日は兄上から逃げていらっしゃるのでしたか。
 おや、違うのですか? しかし、ふふ。既に有名な噂ですよ。
 何せ、兄上が御自ら、至るところを歩き回っておいでですからね。
 すれ違うばかりと申されるなら、運が良いやら悪いやら。

 けれど、どうです? 将臣殿も、かなり歩き回っておいでなのでしょう?
 このあたりで、一服なさっては。
 ちょうど、良い酒が手に入ったのですよ。
 さほどの量もありませんし、日も暮れてまいりましたし。ここは、二人だけの秘密で。
 ああ、どうぞご安心を。兄上は、先触れなく我が邸に踏み入る方ではございませんゆえ。

 さあ、まずは一献。
 私の盃を、どうぞ受けてください。

back to 俺日記 index

http://mugetsunoyo.yomibitoshirazu.com/
いらっしゃらないとは思いますが、無断転載はやめてください。