平参議邸勤めの女房殿の場合
あら、還内府様。知盛様でしたら、本日はまだお戻りになられておりませんよ。
それとも、件の繕い物でございますか?
ふふ、内密になさりたかったのでしょうけど、知盛様に見つかってしまったのですから、こちらの邸では既に誰もが知っておりますわ。
どうぞ、ご安心を。
知盛様は確かにご気分を害されたようですけれど、胡蝶さんは特に何を思われたわけでもないようでしたわ。
ただ、こっそりと持っていらしたのに、結局は誰もが知ることになってしまったことを、心苦しいと申されていましたけれど。
ああ、いえ。今はたまたま、外に出られているだけですよ。
別に、還内府様を厭うているわけではございません。
もっとも、用件を申しつけられたのは知盛様ですので、知盛様には何らかの思惑があられたのかもしれませんわね。
以後はかようなご依頼は相国様のお邸の女房殿に申しつけられるか、こちらに参られるのでしたら、安芸殿にお話を通されませ。
それが、事を穏便に進めるための秘訣にございますよ。
とりあえず、こたびは胡蝶さんが繕ってくださいました。こちらになります。
それと、かような鉤裂きを作られるなら傷も負っておられましょうと、こちらの薬も預かっております。
こちらはきちんと知盛殿にご報告済みですので、どうぞ安心してお受け取りくださいませ。
え? ええ、はい。確かに申しつかりました。御礼はきちんとお伝えしますので、御身はお早く、知盛様に八つ当たられていらっしゃいませ。