朔夜のうさぎは夢を見る

願いを繋ぐ日

 いや、確かに知らなかったとはいえ、俺のミスだ。痛恨のミスだ。
 だからまあ、八つ当たりから逃げてたのを、途中からちゃんとアイツに謝るために、アイツを探す行程に切り替えたわけだ。
 けどさ、だからっていきなり「これから宴だ。舞扇もやる。だからそこでちょっと舞ってこい」っつーのは、酷だと思うんだよな。
 確かに、なんだかんだでかろうじて舞えるのはひとつだけある。
 それに、結局今でもあんまり俺のやらかしたミスのリアルなレベルがわかってないから、みんなが口を揃えて「この程度で良かった」って言うなら、そうなんだろうけど。

 だけど、知らなかった。本当に、うっかりさっぱり忘れてた。
 俺でさえこれで、しかも相手は知盛だぜ?
 だから、これは本当に予想外にも程があった。
 まさか、今日のこれが全部、俺の誕生日をサプライズで祝うための、伏線だっただなんて。
 (あ、でも知盛ンとこの女房さんに繕いものを頼んだのは、リアルに痛恨のミスだった。これも本当だ。)

 連れてかれたのは、俺の誕生日会の宴席だった。
 今日、俺が知盛の居所を尋ねたりする中で、さりげなく行き先を誘導されてたのも全部仕組まれてた。
 プレゼントはそれぞれに考えてくれたらしいけど、それをさりげなく渡してくれってのも通達済みだった。
 去年はバタバタしててそれどころじゃなかったからって、まさか今年になっても覚えていてもらえるとは思わなかった。
 自分で思い出したら、適当に様子見てどっかしらに酒でもせびりにいくつもりはあったけど。本当に、これはもう、ドッキリなんてもんじゃねぇ。

 前座とばかりに舞台に追いやられて、けどそれなりに不安でも感じてたのか、付き合って一緒に舞ってくれた知盛と席に戻れば、誰もに超笑顔で迎えられる。
 祝いの席だというのに良いものを見せてもらった。そう言われてぽかんとしてる俺の代わりに、知盛はしれっと「返礼だそうでございますよ」とかのたまっている。
 口々に祝いの言葉を向けられて、知盛と重衡が超にやにやしていて。
 絡操を理解した瞬間、俺は本気で泣きそうになった。涙が滲んだし、声も震えた。
 けど、ここで泣いたらきっと心配させるし気ぃ遣わせるから、ちゃんと笑ったつもりだ。いびつだったかもしんねぇけど、笑顔に嘘はなかったって断言できる。

 今日まで、こいつらと生きてて良かったなぁって、心の底から思った。
 来年の今日まで、元気に生きていたいって思った。一人でも多く、生きていてほしいって思った。そのために、できるすべてをやろうって、改めて思った。
 だって、こんなに嬉しいんだ。こんなに幸せなんだ。
 言っても言っても言い足りない感謝って、本当にあるんだな。俺、こっちで清盛に拾われてから、つくづくそう思うことばっかりだ。

 正面から言うには、ちょっと照れくさくてアイツにはいろいろ言い損ねた。だから、とりあえず今は、ここに書いとく。
 なあ、知盛。ありがとう。
 俺を受け入れてくれてありがとう。俺を知ってくれて、気にかけてくれてありがとう。覚えてくれてありがとう。
 次も祝ってくれ。それで、俺にも祝わせてくれ。こっちでは妙な習慣だって知ってるけど、ずっとずっと、そうしていこう。
 そのために、今日からは昨日まで以上に、頑張るから。だから、一緒に舞台に上がらせてくれ。
 俺は、お前と舞い続けるよ。舞扇の似合う舞台でも、刃の似合う舞台でも。

Fin.

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