朔夜のうさぎは夢を見る

相国入道殿の場合

 おお、何やら、いつもよりも涼しげじゃな。
 何が違うのか……ああ、いい。言うなよ。この父が当ててみせるぞ。
 わかったぞ! 髪を括っておるのだな。
 うむうむ、良い色遣いじゃ。これは、惟盛の見立てじゃな?
 そなたの髪色に、よぉく似合っておる。
 アレはほんに優しい子じゃ。優しすぎて、武門の子としては時に不安にもなるが、それにしても良い子じゃ。
 こうも慕われて、そなたも父親冥利に尽きるというものだろうぞ。

 そういえば、そなた、前に氷が欲しいと言うておったろう?
 ちょうど、手に入ったでな。
 帝や時子には渡らせたが、そなたが見つからんで、どうしたものかと思っておった。
 ほれ、ちょうどいい。総領がかくなものに舌鼓を打っていては、少々威厳に欠けるやもしれんからな。
 ここで食していけ。糖蜜も用意させたのじゃ。ここでは、そなたはただ、吾の息子というだけじゃ。

 いつどこで聞いたかは忘れたが、こうして削り氷にとりどりの蜜をかけるものを、“かき氷”というのだとか。
 吾も耄碌したのぉ、誰ぞに楽しげに語られたことは覚えておるが、肝心の相手を思い出せん。
 そなたに似ておったと思うのだが……と、どうした?
 氷が染みるのか? 子供ではないのだから、そう慌てて喰らうでないぞ。
 まあでも、今ばかりは良いか。
 ほれ、吾の分もやろうゆえ、落ち着いて味わうと良い。そなたは吾の、自慢の息子じゃからな。

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