キセキをたどる
お前は何を求めるのかと。
与えられたその問いに答えられなかった自分を、今でも悔やむことがある。
何もかもが思い通りにならないことなど百も承知。そんな馬鹿げた世迷言は、口の端に上らせるつもりもない。この世に浄土はありえず、だからこそ人は死をもっての極楽往生を祈り続ける。
知っている。わかっている。
悔い残るからこその人の世。
悔いなき世界では、人は考えるという、人の人たる一切を失うだろうゆえに。
それでもなお、悔い残ればこそ彼女は過去を悼み、愛おしむ。
あの日、あの時、あの瞬間。
いくつもの岐路を思い返しては、失われた数多の未来を夢想する。その、決して引き返すことのできない"もしかしたら"に思いを馳せることでしか、容赦なく薄れゆく記憶を余すことなくとどめる術が見当たらないのだと。
――こんな私を、あなたはきっとわらうのでしょうね。
笑うのかもしれない。嗤うのかもしれない。
いずれにせよ、ちらと流し見て、小さく鼻を鳴らして、そしてきっと口の端をゆるりと吊り上げる。その皮肉と慈愛に満ちた反応はありありと思い描けるのに、もう、においが、声が、思い出せない。
けれど泣いたらば涙に溶けていっそう記憶が薄れてしまいそうで。だから彼女は、笑いながら過去を悼み、愛おしみ。
そしてどこまでも深く悔やみながら、現在を見据え続けている。いまだ答を手にできずにいる、求めるものを捜して。
(まだよ、まだ。まだ届かないの)
(もう、誰も導いてはくれないの)
(道筋など、見えはしないのに)
キセキをたどる
Fin.