滋養強壮に甘酒
「おや、将臣殿。いかがいたしましたか?」
「ちょっと、一緒にどうかと思ってさ」
乏しいながら持つ手を駆使して入手した酒の入った瓶をゆらんと揺らして笑いかければ、重衡は全部をわかっているって感じの笑顔で綺麗に頷いてくれた。
「うまいぜ、これ」
「それは、ありがたいですね」
尼御前は内緒だって言ってたけど、きっと知盛も重衡も、尼御前がそれを俺に言うだろうことはわかっているだろうし、俺が、聞いたら無視をしていられないってこともわかっているんだろう。けど、それでも知らんふりをするのは、もうなんていうか、一種の意地なのかもしれない。
わかってるんだけど、わからないふり。でも内心では通じてる。こういうの、悪くないって思う俺は、きっと随分こいつら兄弟に毒されてる。
女房さんを呼んで、肴とか器とかの用意をしてもらっているのを待っていたところで、なんでもない雑談だったはずなのに、唐突に重衡が「誰か」と声を張った。
「はい」
「ああ、酒器の準備とは別に、"アレ"も用意してもらえるかい?」
「心得まして」
すぐさま応じた声に、ちらっと視線を投げただけで堂々と命じている姿は、さすがは平家の御曹司。知盛に比べれば丁寧な言葉遣いだけど、その威圧感というか、絶対性はまったく一緒だ。
「"アレ"って?」
「それは、見てのお楽しみということで」
こうやって、結局は俺のことをからかって遊ぶあたりも、一緒だ。
酒器やら何やらとあわせて用意されたのは、ぱっと見はいつもの濁り酒のようだった。けど、持ってきた酒より先に呑め、って言うんだから、何か意味があるんだろう。逆らう理由も見つからないので、自分はまだ口もつけずににこにこと見守る重衡の目の前で、恐る恐るといった内心が伝わらないように気をつけながら、ちろりと舐める。
「……甘ぇ」
アルコールの気配はほとんどなく、口の中に広がったのは素朴な甘みだった。この世界には珍しい、はっきりと甘いと感じるほどの。
「兄上から、今朝方、たまたまいただいたのですよ。なんとも、折りがよろしくていらっしゃる」
くすくすと笑う姿には嫌でも重なるものがあって、どこまでも似ているんだから、性格悪いこの兄弟を見てると時々疑わしくなるけれど、やっぱり親子なんだよなって感じる。
「ですが、内緒ですよ。将臣殿にお渡しするほど、量がないのだとおっしゃっておいででしたので」
ほら、最後まで。どこまでも何もかも、とんでもなく似ている。
結論。これからはもうちょい不満を声に出さないように注意しようって、柄にもなくしんみり反省てみた。